日本では定着が難しいと言われていたテレワークですが、コロナウィルスの影響でやや半強制的に実施する企業も増えました。
とはいえ、まだまだ制度として未整備な中、突貫工事で行ったところも多く、しっかりした制度として定着させるためには、ルールや事前対策が不可欠です。
またテレワークはメリットばかりではなく、デメリット、特にリスクについても事前に知っておく必要があります。
テレワーク導入の注意点とリスクについてここでは取り上げます。
テレワークを導入する上で企業が注意するべきポイント、起こり得るリスクと事前の対策を知っておいてください。
テレワークとは?
まず、テレワークの概要について簡単に理解しておきましょう。
「テレワーク」は「リモートワーク」よりもやや広い概念です。
テレワークの「テレ」は電話の「TEL」ではなく「遠い」という意味の「TELE」になります。
会社員の在宅勤務だけでなく、自宅開業しているフリーランスや「ノマドワーカー」なども含みます。どちらかというと行政用語で、今から10年以上前に厚生労働省が出した「情報通信機器を活用した在宅勤務の適切な導入及び実施のためのガイドラインの改訂について」にもテレワークが触れられています。
テレワークは自宅だけで行いません。
自宅利用型テレワーク(在宅勤務)、モバイルワーク(カフェや図書館などで仕事を行う)、施設利用型テレワーク(サテライトオフィス勤務など)の形態に分かれます。
要は、自分が所属する会社のオフィスではなく、別の場所で自分の(あるいは会社の)パソコンを使って仕事をする働き方になります。
テレワークのメリット
今回はテレワーク導入のリスクや注意点などネガティブなことについての記事ですので、テレワーク導入のメリットについては、簡単にまとめます。
- 通勤がなくなる
- 時間効率が良くなる
- 離職率の減少
- 災害等のリスクの分散
- 経費節減(家賃、光熱費、交通費、消耗品費等)
社員にとってのメリット・会社にとってのメリット双方があります。
テレワークで通勤がなくなるので、社員にとってはワークライフバランスが向上します。
効率よく仕事ができる人は、自分のペースで進められるテレワークの方がメリットは大きいです。
会社にとっても、大きなオフィスを維持しなくてもよくなります。
恒久的なテレワークを決めた企業は、都心の高いオフィスを引き払っています。
地方の社員もテレワークで採用できれば、災害時のBCPも整備できます。
テレワークの注意点、リスク、デメリット
テレワークは良いことばかりではありません。
テレワークを導入したGAFA企業の中には、以前のようにオフィスに出社して仕事をするのを一定程度求めるような流れもあります。
完全リモート、テレワークはリスクやデメリットなどマイナスの側面もあるということを知っておきましょう。
注意点も含めてまとめました。
時間管理、勤怠管理が難しい
テレワークは家の中でパソコンに向かって仕事をしますが、早朝や深夜でも就業可能です。
労務時間管理が難しく、どこまでを就業時間にするのか、時間外勤務をどのように認めるかなど、オフィスワークとは異なる問題点があります。
勤務時間(労働時間)を社員の自己申告にすると、過少申告(時間外過大請求)、過少申告が目立つかもしれません。
しかし、カメラを通して仕事をしているかどうか確認するソフトなどを入れれば、常時監視されていることになり、多大なストレスになります。
そもそも時間や場所にとらわれないテレワークの良さが消えてしまいます。
休憩時間、移動時間、食事時間などをどのように計算しますか?
しかし、社員は労働者なので、フリーランスの業務委託のように成果だけで評価ができないのです。
テレワークできない業務もある
すべての業務がテレワークに馴染むわけではありません。
同じ会社でも総務や経理ならばテレワークできても営業は難しいです。
もちろん、工場の管理や現場作業の人はテレワークできません。
同じ会社でテレワークできる人とできない人が併存すると、不公平感が広がります。スーツを着て電車で1時間以上かけて通勤しなければならない部署の人がいる一方で、自宅で私服勤務でき、音楽を聴きながら、ソファに寄りかかりながら仕事ができる人ではモチベーションが全く異なります。
しかし、全員テレワークにできる仕事でないなら、どこかで線引きをしなければなりません。
社内に亀裂を生まないように納得いく説明をしてください。
コミュニケーション不足に陥りやすい
対面で接しないということは、「ちょいといい?」みたいなコミュニケーションが取りにくくなります。
パソコンの画面とにらめっこしながら複数の同僚とコミュニケーションをとるのは大変です。
チャット機能があるテレワークソフトもありますが、やはりチームプレイは何気ない会話から生まれるものです。
自宅でテレワークしていると、孤独感を感じストレスを溜めて心身の体調を害してしまう人もいます。
業務が属人化し、仕事内容が共有されにくくなります。
上司と部下のコミュニケーションもおろそかになり、仕事の進捗管理が難しくなるかもしれません。
コミュニケーション不足によって、仕事が進まないリスクについてはしっかり認識しておくことが大切です。
情報漏洩リスク
ウイルスや不正アクセスのリスクについてはもちろんですが、社員が故意に情報漏洩される可能性もあります。悪意がある人を100%防げません。
あるいは過失で情報漏洩してしまうリスクもあります。
社内に人と間違えて友人知人にデータ添付でメールしてしまう、LINEなどにデータをつけて他人へ誤送信してしまうなどのリスクはゼロにできません。
また、テレワーク端末に私物のUSBややスマートフォンなどの外部デバイスが接続されると、機密データが同期されるリスクがあります。
社員がプライベートでHDではなくクライドにデータを保存している場合も同様です。
意図せず、勝手に仕事のデータが、他のデバイスに移ってしまうリスクがあります。
さらに、自宅ではなくホテルやレンタルオフィス、カフェなどでテレワークしていると、公衆無線LAN(Wi-Fi)接続することがあります。
公衆Wi-Fiでは、通信内容が暗号化できないことがあります。
暗号化できないと、データの漏洩、ウイルスの侵入、パスワードの抜き取りなどのリスクがあります。
データを暗号化するため専用のポケットWi-Fiを用意するという方法もあります。
リスク回避のためのテレワークのルール制定と事前対策
このようにテレワークにはメリットとデメリット、リスクがあります。
リスクを減らせれば、新しい柔軟な働き方としてテレワークの業務効率が上がり、生産性のある仕事が期待できます。
リスクを減らすためにできるルール制定と事前対策について考えてみましょう。
リスクを減らす社内ルール制定
テレワークのリスクは大きく分けて「情報漏洩」と「社内の不協和」になります。
情報漏洩についてはイメージできますが、テレワークによって対面で顔を合わせないことで生まれるコミュニケーション不足や、個々人の仕事への評価基準に不統一など、これまでのオフィスワークでわからなかった部分についてのサポートが必要になります。
まず、社内のソフト面での対策としてルール作成について考えます。
テレワークの運用ガイドラインの整備
テレワークをするにあたり、社内の連絡方法やデータ共有方法などを定めます。
私用メールアドレスを使うわけにはいかないならば、職場のメールアドレスを自宅パソコンでも使えるようにしないといけません。
オンライン会議はZOOMで行うのか、LINEのグループで行うのか、ほかのソフトを使うのか。個々人が勝手にツールを選ぶのはよろしくありません。
テレワークならば時間と場所を問わない働き方ですが、休日や深夜にも行ってよいのか、その場合の労働時間の扱いなども決めておかなければなりません。
社員は労働契約をしている労働者ですので、労働基準法の対象になります。
フリーランスのように好きな時間に働きたい場合どうすればよいか、一歩間違えると時間外労働を強いることにもなりかねません。
どこまで社員に裁量を持たせられるのか、持たせるべきなのか、しっかり事前に取り決めをお願いします。
勤務時間の把握と時間による評価ではなく成果による評価基準の策定
テレワークは時間ではなく成果によって評価する仕組みに否応なく社内ルールを変化させます。
パソコンのカメラで本当に仕事をしているかチェックするシステムを導入する会社もありますが、それでは四六時中監視されているのと同じで、何のための時間や場所にとらわれない働き方なのかわかりません。
きわめて日本的で、これなら私語もたばこ休憩もできるオフィスワークの方がましです。
そうではなく、時間管理については最低限とできるよう、メールや各種コミュニケーションツールを利用して、上司への業務開始・終了の報告を義務付けることで、仕事をしているか確認できます。
だらだらだと残業するような人を評価するのはオフィスワークまでです。
テレワークでは自分のやり方でしっかり時間通りに終わらせて、成果物を出せる人を評価します。そのための残業を過度に評価しない人事考課制度などの制定が求められます。
会社単位のセキュリティ対策と並行して、個人単位のセキュリティ対策も進めましょう。
そのためには、会社の情報へのアクセスは、会社から配布した端末からのみ可能にするなど、
社内データアクセスのガイドラインの策定
社内のシステムやデータに自宅やカフェからアクセスできるようになるというのは、一歩間違えると重大な事故につながります。
アクセス権限をどう割り振るのか、誰がどのデータに、いつの時間にアクセスできるのか、自由に働けることは逆に大きなリスクにもつながります。
社内でしっかり情報やシステムについてルールを決めておいてください。
リスクを減らす事前対策
ルールを決めるだけでは不十分です。
人間はミスをする前提で、それを防ぐための事前対策も必要になります。
社内のセキュリティをさらに拡張して、社員がテレワーク先でも問題なく仕事ができるようにハード面も整備します。
セキュリティ対策
言うまでもなくセキュリティ対策は最重要です。外部からのサーバー侵入、社内システムのウイルス感染などを徹底的に防ぎます。
特に各自のパソコンで作業するようになる場合、それぞれにセキュリティ対策ソフトなどをダウンロードする必要があります。
当然ですが、セキュリティソフトは会社が用意して、全社員に等しくインストールさせます。
社員任せにするのはセキュリティレベルがバラバラになりリスクしかありません。
IT導入補助金など補助金を活用すれば自社の負担を軽減でき、かつセキュリティを強化できます。テレワークについても利用できないか、合わせてご検討ください。
専用端末を配る
自宅のパソコンではなく、テレワーク専用の端末を購入し社員へ配布する方法もあります。
補助金などを活用すれば設備資金として資金調達し、自己負担が少ない中で社員へ配れます。
セキュリティ対策などを施し、私用のソフトやアプリインストール、ダウンロードを禁止すれば、テレワーク用の端末として効果的です。
テレワーク推進の掛け声だけではなく、本当に効果的なものにするために!
テレワークしようという掛け声は大きいですが、実際に行う場合今回紹介したようなリスクを考えなければなりません。
リスクを解消しテレワーク推進のメリットを取るか、これまで通りのやり方でリスクヘッジするのか。
新しい働き方が社員のモチベーションを高め、仕事の質が上がるように環境整備するのが有能な経営者です。
新しい働き方はテレワークだけではありません。
リスクもしっかり見極めて最適な経営判断をしていきましょう!