労働災害とは?予防するために企業ができること

労働災害とは?予防するために企業ができること 労務リスク

労働災害(労災)は大切な社員、従業員の健康を害してしまうだけではなく、企業の大切な戦力が一時戦線離脱してしまうことを意味します。

労働災害についてしっかり理解し、それを防止する取り組みができれば、従業員の心身の健康は維持され、社内業務のパフォーマンスが向上します。

企業として労働災害を起こさないことで、組織を守れます。今回は労働災害(労災)について解説し、その防止策を考えます。100%労働災害を防止することは難しいかもしれませんが、できることはぜひ取り組んでいきましょう。

労働災害(労災)とは何?

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まず、労働災害(労災)に定義について解説します。労働災害とは社内での業務や通勤中に起きた事故、あるいは業務や通勤が原因となり(業務や通勤に起因し)引き起こされた事故、または病気を指します。

つまり、労働災害は、その人がその会社で働いていなかったら起きなかった事故あるいは病気ということになります。会社はその人を雇っていたのですから、事故や病気を引き起こした因果関係があり、それが認定された場合には公的な補償、労災保険を被害者が受け取ることになります。

労働災害には大きく分けて3つの類型があります。

業務災害

業務上の負傷や疾病、結果として障害が残った、あるいは亡くなった場合の労働災害です。

労働契約にもとづく人、つまり社員やパート、アルバイトなどが対象になります。労働災害として認定されるためには、「事業主の支配下にあるといった業務遂行性」「事業主の支配下で危険が現実化したと経験則上認められる業務起因性」「発症の経過や病態が医学的に妥当とみられること」の3点を満たす必要があります。

就業中の私的行為やいたずらは労働災害ではなく、別の犯罪(不法行為や傷害罪)になり、やった人からの賠償案件です。労働者の故意により引き起こされた災害、つまり自分でふざけて会社の屋根に上って落ちてけがをした場合、労働者の個人的関係により第三者から傷害を負わされたケース、つまり社内の恋愛関係や不倫関係で逆恨みされて刺された、みたいな場合は労働災害になりません。

業務起因性は最近メンタルへルス分野で問題になっています。かつてはアスベストや炭鉱での有毒ガスや粉じんによる病気の因果関係が争われていましたが、最近は、企業内のハラスメントでうつ病や他の精神疾患になった場合、業務起因性があるかが裁判などで問われています。

従来はなかなか業務起因性を認めない傾向でしたが、最近は社内で精神疾患になった場合、業務起因性を認定し、労働災害になるケースが増えています。

通勤災害

通勤中の負傷や疾病、通勤の結果障害が残った、あるいは亡くなった場合の労働災害です。

自宅と会社の往復、社用で通勤場所から移動した場合(外出、外回り)、出張時の自宅や会社から出張先で起きたアクシデントに対して企業が責任を負います。

通勤災害の認定基準には、移動経路も重要です。「就業に関する移動」「労働者災害補償保険法7条2項が定める類型の移動」「合理的な経路及び方法により行う」を満たす必要があります。

つまり、会社に定期をもらうために出した通勤経路で事故などに遭わないといけません。金曜の夜に途中駅で降りて飲んでいて事故に遭った、休日定期を利用して遊びに行って事故に遭った、営業で外回り中にバレないことをいいことにまったく別の場所に行き足を挫いたなどは通勤災害の対象外になります。

ただし、職業訓練や教育訓練のために会社帰りに専門学校へ行く、勤務時間中に選挙の期日前投票に行く、勤務時間中に体調不良になり外部の病院へ行くなどのケースは労働災害の対象になります。

第三者行為災害

事故の中には自損事故(転倒、運転中の事故)だけではなく、「労災保険給付の原因である災害が第三者の行為などで生じたもの」や「労災保険受給権者の被災労働者又は遺族に対して、第三者が損害賠償の義務を有するもの」があります。

本人に落ち度がなく、第3者の行為によって事故に遭い、場合によっては亡くなったり障害が残ったりしたケースを分けて分類することがあります。

電車やバスの事故だけではなく、通勤中にいきなり通り魔に遭って刺される、工事中のビルからスパナが落ちてきて大けがをするこうしたケースは、雇用者に落ち度がなく、第三者行為災害と分類されます。

京都アニメーションの放火事件などもこれに該当します。

労働災害が自社で起きた時はどうなる?

労働災害に備えて企業は従業員の労災保険に加入します。社会保険や雇用保険は労使折半ですが、労災保険については企業が100%負担します。労災保険の不払い、未加入は違法行為ですので注意してください。

労働災害が起きてしまうとどうなるのでしょうか?

労災保険料の増額

何度も労災事故が起きている企業は、最大で40%も労災保険料が増額されるというペナルティがあります。労災加入は義務ですので、当然企業の財政的な負担が大きくなります。

刑事罰

社員が労災認定され。経営者が刑事罰を受ける自邸は極めてまれですが、可能性として、会社やその責任者に対して労働安全衛生法違反、業務上過失致傷罪、業務上過失致死罪などの刑事罰が科される可能性があります。

行政処分

刑事罰と比較して行政処分は出しやすく、重大性に鑑みて判断されます。

指名停止処分

公共事業の入札などから締め出されることもあります。行政から指名停止処分を受けると、指名入札や競争入札に参加できなくなります。公共事業を受注できなくなります。

労災隠しはさらにペナルティ

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このように従業員が労働災害になるとペナルティを受けてしまいます。それを避けるために「労災隠し」をするともっと重大な処分を受けます。

労働災害になると、健康保険ではなく労災保険で治療(患者負担0)しますが、そこで労災バレしてしまうので、健康保険で病院の診察、診療を受けるように促します。

労働基準監督署などへの通報で隠ぺいがバレてしまいます。

事業主(企業)は、労災災害が発生した場合には、法律上、必ず労働基準監督署へ報告すること義務付けられています。

意図的にそれを隠ぺいしなくても、積極的に報告しないだけで「労災隠し」にあたり、労働安全衛生法第100条、同法第120条第5号違反になり、50万円以下の罰金に処せられる可能性があります。当然メディアでも報道され、ダメージが大きいです。

※「「労災かくし」は犯罪です」(厚生労働省HP)

労働災害になるケース、ならないケース

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同じけがや病気でもシチュエーションによって、労働災害になるケースとならないケースがあります。表にまとめました。


労働災害になる労働災害にならない
職場で骨折指示されてものを運んでいてうっかり落として骨折した休憩中にダンベルで筋トレをしていて誤って落として骨折した
職場で体調不良工場の有毒ガスを吸い込んで倒れた風邪気味で出勤して職場で熱が上がってしまった
職場で暴力を振るわれて 病院へ行くことになったお客さんからいきなり殴られた 上司のパワハラ私的なトラブルを抱える相手が職場を訪問して暴力をふるった
うつ病など精神疾患を発症した業務に起因することを客観的に証明できる場合(暴言を録音したもの、長時間残業の証拠など)社外の交友関係や家族関係から発症し、会社へ行けなくなってしまった
階段から転んでけがをした出勤中、取引先への訪問中、出張中など業務の途中でけがをした会社が帰りに同僚と飲み酔って階段を踏み外した
自動車にはねられた通勤中は通勤災害 業務中の移動時は業務災害同僚と飲み会後の事故、休日にプライベートな外出をしているときの事故

営業時間中や通勤中で、従業員が故意ではなくアクシデントに遭った場合、原則的に労働災害になります。

何かの病気にかかっていて、出勤中に症状が出た場合は労働災害にはなりません。速やかに病院へ行くように促してください。

企業が労働災害を防止するためにできることとは?

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いくら注意しても突発的な事故を100%防ぐことはできません。自宅から一歩外に出れば事故に遭う可能性は0ではないからです。しかし、企業の取り組みによって労働災害の可能性を減らし、防止につなげることはできます。

防止策について紹介します。

リスクアセスメントを実施する

社内業務にどのくらい労働災害のリスクがあるか、アセスメント(評価、査定)を行います。危険な場面がわかれば、その業務に対して事故を防ぐような防止策が取れます。

専門家なども交えて、企業内のリスクアセスメントを行ってください。工場ならば実際の作業工程のどこに事故が起きやすいのか、建設現場ならば事故になりやすい現場、薬品を取り扱う企業ならば、薬品を吸い込んで急性中毒などになりやすい工程がアセスメントによってわかります。

企業のリスクアセスメント実施は「労働安全衛生法」第28条の2による努力義務でもあります(一部化学物質にかかわる企業は「義務」(絶対に必要)。

従業員への安全衛生教育の徹底

企業側がリスクヘッジのための防止策を講じても、肝心の従業員に伝わらなければ意味がありません。

労働災害を防止するためには、定期的に安全衛生教育を行ってください。

チェーンソーを扱う業種やボイラーの取り扱いなど危険性が高い業務では、安全衛生教育の実施が「労働安全衛生法」第59条の3による義務になっています。

通常の事務職でも可能な限り事故の時の応急処置などについて講習の機会を提供しましょう。疾病予防なども安全衛生教育の範囲です。

メンタルヘルス対策を導入する

労災としてうつ病などメンタルヘルスの問題が避けて通れなくなっています。管理職向けメンタルヘルス研修や従業員向けの研修などを通して、ストレスチェックなどができるようにしてください。

セクハラやパワハラなどハラスメント防止対策も喫緊の課題です。メンタルを病む原因は多様化しており、業務に起因することが認められれば労働災害になります。

産業医と連携した「こころの相談室」やEAP(従業員支援プログラム)の導入も有効です。

「メンタルヘルスマネジメント検定」の受験推奨、オンライン研修の実施などメンタルヘルスを企業内で考える動機付けも有効です。

従業員の長時間残業の防止、有給休暇の取得

時間外労働、長期間残業はうつ病などの原因になるだけではなく、集中力や判断力の低下を招きます。結果として業務時間中の事故を誘発しかねません。

過労による注意力散漫による事故でも、故意性がなければ労働災害になります。心身の健康を害するリスクが高くなります。精神疾患ではなく、長時間労働により心疾患や脳疾患が誘発されたと診断されればそれも労働災害になります。

従業員の1か月の時間外・休日労働時間が80時間を超えた場合は、「労働安全衛生法」による産業医との面接が義務付けられていますし、そもそも労働基準法による時間外労働の例外(36協定)違反になります。

労働災害防止は企業の責務であり可能な対策を講じよう

労働災害(労災)と認定される異例が増えています。

「令和3年度「過労死等の労災補償状況」を公表します」(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_26394.html

特に精神疾患による労災認定は右肩上がりであり、従前よりも認定されやすくなっています。精神疾患による労働災害認定業種は「医療・福祉」が最多であり、「労災は工場で働く人の事故によるもの」というイメージが変わりつつあります。

工場などの事故防止対策は年々しっかりしてきている反面、セクハラ、パワハラなどハラスメントを中心にした精神疾患による労働災害に歯止めがかかりません。

労働災害は事故が多い特定の業種の問題ではなく、全業種あらゆる職場で起こりうるものとして防止対策をお願いします。

労災保険の支払いは政府(厚生労働省、各都道府県労働局、労働基準監督署)が労働災害に遭った人に行いますが、保険加入は事業主であるみなさまの100%負担であり、何度も労働災害が起きると、労災保険料が最大で40%も労災保険料が増額されるというペナルティもあります。

何より、メディアによる報道やSNSによる拡散などで社会的制裁を受けるでしょう。

労働災害を防止することが企業を守ること(もちろん従業員の命を守ること)にもつながります。

労働災害を自分のこととらえて防止対策をぜひよろしくお願いいたします。

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