ここ数年でさまざまなもののペーパーレス化が進みつつあります。中央省庁の「脱ハンコ化」やデジタル庁の設置などこれまで紙ベースで行っていたものを電子化し。書類ではなくデータとして残そうという流れが広がっています。
従来の契約書などは、ほとんどが紙に印刷して、ファイルに綴って保存していたものでしたが、それらも電子契約書となり、電子的に作成、保存される流れが加速しています。
今回は書類のペーパーレス化における必要性や導入するメリット・デメリット、ペーパーレス化を進めるための方法などをご紹介いたします。
契約書等書類のペーパーレス化とは何?
まず契約書をはじめとするペーパーレス化の定義やそれを可能にする方法について解説します。ペーパーレス化とは何なのかご理解いただいたうえで、そのメリットやデメリットについて考えていきます。
ペーパーレス化の方法
ペーパーレス化するためには、いくつかの方法があります。大きく分けると、最初からペーパーレス化が可能なシステムを使うこと、もう1つは紙ベースのものをデータ化しそれを電子帳簿、電子書類としての要件を付与することです。
これらを行うことで、紙ベースではなく電子データとして法律上有効な書類になり、保存できます。
電子契約システムで契約する
最初から電子契約を前提に、専用のシステム、クラウドソフトなどを用います。電子署名や電子スタンプなども用意されているため、システム上に入力することで自動的にペーパーレス化された書類が仕上がります。電子署名もシステム上で行えます。この電子署名によって、紙の書類の押印と同じ効果が認められます。
データはPDFなどの形で保存できます。
紙をスキャンしてタイムスタンプを押す
紙ベースの契約書や領収証をスキャナで読み取り、jpg(画像)ファイルやPDFファイルに変換します。それだけでは本当にそれがその時間に存在したのかわかりませんので、タイムスタンプという時間を証明する機能を使います。
ペーパーレス化の根拠法
もともとすべて紙のままファイルに綴じ、保存することが求められていましたが、2005年には当時、紙の保存が義務付けられている法定文書について、電子保存を容認する「e-文書法」が施行されました。
従来税務署長への届け出や厳格な要件が定められていた、国税関係(所得税、法人税、消費税など)帳簿・書類について定めた「電子帳簿保存法」についても、電子データ保存の大幅な要件緩和が行われ、2022年1月から改正法が施行されました。これまでは「やる気のある人だけにペーパーレス化を許す」という姿勢だった国が「積極的にペーパーレス化しないと不利益がある」という方向に転換しました。
確定申告のe-taxもペーパーレス化の一種ですが、かつては非常に使いづらかったものですが(ブラウザがInternetExplorer限定など)、ようやくEdgeやchromeに対応するなど使いやすくなってきています。
法律、制度面でペーパーレス化を進める流れになっています。
紙の書類と電子書類(ペーパーレス化)の比較
従来の紙ベースとペーパーレス化した電子書類の違いを表にまとめました。
紙ベース | 電子書類(ペーパーレス化) | |
形式 | 紙に印刷、ないし紙に書く | 電子データ(PDFなど) |
押印 | 印鑑 | 電子署名、電子サイン |
本人である証明 | 印鑑証明書 | 電子証明書 |
改ざん防止方法 | 割印・契印 | タイムスタンプ |
印紙 | 貼る | 不要 |
送付、渡し方 | 手交、郵送 | メールやアップロード |
保管方法 | クラウド、サーバー、HD | ファイルに綴り棚に保管 |
ペーパーレス化を進めると、まったく従来の紙ベースとは異なる仕組みになります。
書類をペーパーレス化するメリットとデメリット
従来の紙ベースの書類とペーパーレス化した電子書類について理解していただいたところで、ペーパーレス化のメリットとデメリットを考えてみましょう。
ペーパーレス化のメリット
まずペーパーレス化のメリットを考えます。ここが多いので、契約書など社内書類を電子化しようという流れになります。
コスト削減
紙に印刷してファイルに綴じる必要がなくなるので、コスト削減につながります。保管台紙に糊付けすればそのお金もかかります。
また契約書など重要書類では、その辺のコピー用紙以外の上質紙や特別な紙を使うこともあります。こうした小さな出費が積み重なると馬鹿になりません。それらをペーパーレス化することで削減できます。
業務効率化
コスト削減だけでなく、パソコンで全部完結するので、印刷や製本の手間を削減できます。会社の公印を押す場合、許可を取り、総務部などに行き、台帳に書いて押すような手間をかける会社もあります。
そうしたきわめて無駄な印鑑や決裁についての時間的コストを省けます。専用のシステムがあれば、紙に印刷して社内を廻って決裁印を押すなども無駄な時間も削除できます。
出社しなくて済む(テレワーク可能)
コロナ最初期に、「ハンコを押すためだめに出社するサラリーマン」が話題になりましたが、ペーパーレス化すれば、印鑑を押すこともなく、完全テレワークで完了します。
時間的なコストもかからず、多様な働き方をしながら、契約書類などを取り交わせるようになります。
すぐにデータを取り出せる
紙ベースで保管していると、どこの棚にどの書類があったのか探し出すに時間がかかります。もちろん、ファイリングがうまければその時間は短縮できますが、どうしても物理的距離だけはどうしようもありません。
ペーパーレス化すれば、パソコンや端末上で検索するだけですぐに該当する書類データが取りだせます。書類の保管庫へ行く手間もかからず、本当に楽です。
安全性向上、紛失リスクの軽減
書類の物理的盗難や火災、水害、地震などの災害リスクも避けられます。データを社内のHDではなく社外のデータセンターやクラウド上に置けば、極端な話会社に隕石が落ちても
ペーパーレス化のデメリット
一方でペーパーレス化することによるデメリットも知っておいてください。
初期投資が必要
電子署名や電子契約のためのシステム導入にお金がかかります。社内全体での導入になるはずなので、かなり大きな設備投資になるはずです。このお金があればもっとほかの投資ができそうだと思うとなかなか踏み切れないかもしれません。
データ紛失、ハッキングリスク
紙の書類の場合、物理的な紛失、破壊リスクがあります。一方、電子書類の場合、外部からのハッキングで情報が抜かれたり、データベースの異常でデータそのものが消えてしまったりする可能性があります。
紙の書類ならば、火事でも燃えない金庫に入れておけば物理的破壊は防げますが、電子書類の場合、どこでどのようなハッキングやサイバー攻撃、データの破損が起きないとも限りません。
そうしたリスクを最小限にするようなセキュリティ対策や、データのバックアップなどが必要で当然お金もかかります。
電子化できない書類もまだある
多くの書類のペーパーレス化は法律によって可能になりましたが、まだ以下の書類は紙ベースでの保管が義務付けられています。
- 事業用定期借地契約
- 企業担保権の設定又は変更を目的とする契約
- 特定商取引(訪問販売等)の契約等書面
業種によっては、ペーパーレス化が難しい書類が多いところもあるかもしれず、そういう会社のペーパーレス化は大きく遅れてしまいます。
書類のペーパーレス化は必要なのか?紙のままではダメなのか?
書類のペーパーレス化は紙のままではいけないというよりも、今まで通り契約書を紙のまま保存することができなくなります。
令和3年、「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律(電子帳簿保存法)」の改正が行われました。その結果、電子契約した契約書などは2年間の経過期間(その間は紙で保存してもOK)ののち、令和6年1月1日より電子契約に関する記録を紙で出力して保存すると「違法」になります。
税務調査があった場合などは当然指摘され、電子データがないと違法性の指摘があるでしょう。
電子帳簿法改正によって領収証もスキャナで読み取り、タイムスタンプを押すことで、領収証原本(紙)をファイルに綴じず、電子データとして保存することが認められます。逆に電子データの領収証(Amazonなどネットショップの領収証)は紙に印刷しての保存ができなくなります。
一方は電子データ、一方は紙で保存というのはとても効率が悪いので、これを機に電子保存を原則化し、ペーパーレス化を推進すべきです。
ペーパーレス化のためのスキャナやシステム導入を補助する「IT導入補助金」など公的な補助制度っも活用して積極的に進めるべきで、紙のままでは時代に残されてしまうでしょう。
したがって「ペーパーレス化は必要」「紙のままではダメ」となります。
ペーパーレス化を推進する補助金の紹介
ペーパーレス化、電子書類、電子契約書などを作成し、社内の業務フローに落とし込むためには、システムの導入、IT化が必要です。
IT導入補助金
中小企業・小規模事業者等が自社の課題やニーズに合ったITツールを導入する経費の一部を補助することで、業務効率化・売上アップに資するもの。ITに特化したネットワーク構築や設備投資を支援します。電子契約書などペーパーレス化のためのソフトやクラウドへの投資も対象になります。
補助金額は5万円~450万円。
ソフトウェア購入費、クラウド利用料、導入関連費に補助が出ます。「デジタル化基盤導入枠(デジタル化基盤導入類型)」はこれらに加えハードウェア購入費(パソコンやタブレット、レジなど)も対象となるため、電子書類作成についてもハードから補助金でそろえることが可能になります。
テレワーク促進補助金
東京都しごと財団が運営している補助金で、テレワークを更に定着させるため、都内中堅・中小企業等に対し、テレワークの導入に必要な機器やソフトウェア等の経費を助成するものです。
他の自治体でも似たような補助金があるので、ぜひ探してみてください。
この補助金を使ってテレワーク環境を整備することで、「ハンコを押すために出社」みたいな社内の価値観が変わり、IT導入補助金などと合わせて、社内のオンライン環境が整備され、結果的に従来型の紙ベースの契約書などではなくてよいではないか、という意識が醸成されるはずです。
ペーパーレス化を積極的に進め業務効率化を図ろう
電子帳簿保存法による電子データの保存義務が間近に迫っています。これまで紙ベースで進めていた会社も対応を余儀なくされます。自社は紙でよくても取引先が電子化を指定すればそれに合わせざるを得なくなります。
そうした「後ろ向き」の考えではなく、業務をIT化し効率化、これまでの仕事フローを見直すチャンスだと前向きに考える機会にできると、業務改善、経営改善に資することになります。
ある程度の投資は必要ですが、今ならさまざまな補助金も利用できます。積極的にペーパーレス化を推進し、自社業務の無駄な部分を洗い出すチャンスにしましょう。ペーパーレス化をするメリットは予想以上に大きなものになります。