企業がひとたび不祥事を起こすと、一気にSNSで拡散し「炎上」する時代になりました。
コンプライアンス順守していても、悪意のある人間によって画像や動画が切り取られ不祥事に仕立て上げられてしまう可能性もあります。
不祥事が起きた時の対応、リスクヘッジは何より大切な企業を守るための方策です。
今回は具体的な企業不祥事を挙げ、そこからリスクヘッジのための対応や、そもそも不祥事を起こさないための対策について考えていきます。
1回のミスが全国的に拡散し大変なことになってしまう時代です。ぜひ注意をお願いします。
企業の不祥事とはそもそも何か?
企業における「不祥事」とはそもそもどのようなものなのでしょうか?
大きく分けると数パターンに大別されます。
粉飾決算、脱制など不正経理
会社の売上をごまかして、利益が上がっているように見せて会社の株価を釣り上げる、あるいは社会的イメージを保とうとします。
あるいは補助金や給付金目当てに、売上を過少報告する事例も不祥事です。
一連のコロナ関係の給付金や補助金は売上が一定程度下がっていることが条件でした。
実際には売上があるのに過少申告して、不正受給し摘発された例もあります。
情報漏洩
顧客などから預かった個人情報(氏名、住所、電話番号、クレジットカード情報など)を漏らすと、企業の信用を大きく下げてしまいます。
この会社には自分の情報は提供できない、となり客離れにつながります。
また、回転寿司チェーンで起きましたが、ノウハウや製品情報といった企業秘密を同業他社に漏らした不祥事もありました。
情報は数値化できるものだけではなく、無形のノウハウや知的財産も漏洩してはいけません。
消費者被害
人の健康や命にかかわる被害を与えてしまうと大きなリスクになります。
自動車や家電製品に不具合があり、発火や爆発してしまえば、全商品回収になります。
食べ物関係はもっと重大な不祥事になります。食中毒を起こすと企業の存続レベルの批判にさらされます。
賞味期限切れレベルでも大変なことになったのは、雪印や不二家をみれば明らかです。
ゴキブリが焼きそばに混入し、全商品をストップさせたペヤングソース焼きそば(まるか食品)の例もあります。
口に入るものについては些細なミスも重大な不祥事になります。
ハラスメント
セクハラやパワハラもかつてのように社内で隠ぺいできなくなっています。
音声付きでSNSに流されれば、その人は終わりです。そもそもかつて「当たり前」だったことも今の基準では許されないこともあります。
ハラスメント対策の法律もどんどん整備されています。
昔のような感覚でいると大変なことになります。
社員の不適切な行動、言動
社員が刑事事件で逮捕されるといったことの不祥事ですが、ある意味それ以上に不適切な言動や行動が企業に致命的なダメージを与えることになります。
SNSで社員が差別的な書き込みをした、勤務時間中に匿名アカウントで問題発言をしていて「中の人」がバレた、などです。
吉野家役員の「生娘、シャブ漬け」発言も、クローズな環境だからとうっかり話してしまったことが、ネットに書かれて不祥事として大炎上しました。
企業で不祥事が起きる理由
なぜ不祥事が起きるのか、意図的に不祥事を作ってやろうという人はいないはずです。
そうではなく、風通しが悪く、上司に諫言できない職場環境で数字を押し付けられて改ざんしてしまう、プレッシャーでおかしくなってしまう、ハラスメントを受けた時の相談窓口がないなど複合的な要因が合わさり起きます。
「なぁなぁ」で解決できる時代は終わっていて、しっかりしたコープレートガバナンスが求められます。
個々人の意識の低さによって情報が入ったUSB紛失は尼崎市市長の選挙再選断念にもつながりました。
外注先の不祥事も発注先が責任を取らなければならないこともあり、社員教育だけでは100%防げないリスクもあります。
社員に対して、コンプライアンス順守や不祥事を起こさないことの動機づけが何より大切になります。
不祥事が起きた時の対応
もし企業が不祥事を起こしてしまった場合どのような対応を取るべきでしょうか?
対応、対策をいつまでも考えていると、不祥事の火はどんどん大きくなり延焼範囲が広がってしまいます。
事実関係を早期に確認する
何が起きたのか事実関係を早期に確認、把握します。
「そんなはずはない」「不祥事ではなく事故では?」と正常性バイアスを働かせてしまうと、どんどんSNSによって不祥事は拡散し、尾ひれがついて行きます。
早々に個人名なども拡散し、全国の人が知ることになります。
風通しが悪い会社だと、悪い情報は上に上がってきません。
社員も自分の身を守るためには情報を上げないのが合理的だと学習してしまっているからです。
常日頃から、耳の痛い情報も積極的に聞く姿勢、諫言を受け入れる度量がないと、経営者は何も知らないまま時間だけが過ぎていきます。
早期の報告と謝罪
不祥事の事実関係がつかめたら、早期にHPなどで報告します。
記者会見を開けるくらいの大企業ならば、それも同時に行います。
不祥事が起きていることがわかったら、関係各所への報告と謝罪を行いましょう。
トップが頭を下げて謝罪する姿勢を見せることが大切です。
謝罪会見で失敗した不祥事企業は枚挙にいとまがありません。
とにかく、全面土下座謝罪に使いニュアンスでまずお詫びすることと、その対応策を発表することです。
これに成功すれば一時的なダメージはあるものの、企業ブランドを毀損することは免れます。
コンプライアンスや不祥事対応に強い弁護士からこの段階でアドバイスを受けられると心強いです。
コメントや謝罪についても専門家の指示に従う方が良いですが、その専門家選びを間違えるとさらに延焼してしまいます。
素直に、スピード感を持ってトップが頭を下げて謝罪するほうが良いこともあります。
原因究明をする
謝罪が成功すると、世間の関心は低下し、そのまま「逃げ切れる」こともありますが、そこでそのままにしておくと再発のリスクがあります。
外部に公表するかどうかは別にして、原審究明は必ず行ってください。
社員による属人的な問題なのか、ある部署の問題なのか、全社的な企業文化なのか、あるいは社長(自分)が原因なのかで、今後の対策が異なります。
トップが意識を大幅に変えることが求められるかもしれません。
尤も、そのような報告が上がってくるならば、上に忖度しない風土ができているので大丈夫でしょう。
再発防止策を検討し徹底する
原因究明後は、具体的な再発防止対策を講じます。この対策によって、今後の不祥事リスクが減ります。
場合によってはある部署そのものを解体、再編する必要があるかもしれません。
「外科手術」的に大鉈を振るう必要が出てくるかもしれません。
それができるかどうかは経営者、トップの強い意思です。
ご自身のこれまでの振る舞い方についても大幅に変える必要が出てくるかもしれません。
部下に責任を押し付ける姿勢では不祥事はなくならないと肝に銘じてください。
著名な企業の不祥事やその対応
著名な企業で起きた不祥事について3つ紹介します。
不祥事が起きた後に事後対応に成功したところもあります。
スシローの「おとり広告」
回転寿司のスシローは、今年に入り「回転寿司テロ」の被害者として注目されていましたが、2021年、2022年には悪質な「おとり広告」という不祥事を繰り返していました。
キャンペーンで出すお寿司のネタがないのに宣伝していて消費者庁から改善命令を受けていました。
- ビール半額と広告を打つが開始時期不明
- 「冬の味覚!豪華かにづくし」→早々に売り切れ
- 「新物!濃厚うに包み」「冬の味覚!豪華かにづくし」→早々に売り切れ
根本的な解決策を示せず。対策の説明も不明瞭なまま売上が落ちつつあったときに、今回の動画拡散となりました。
悪質客に対して法的に対応するのは素晴らしいことで、これが社内でもできるのかが今後のポイントです。
トンボ鉛筆の東日本大震災後の人事メール
「トンボ鉛筆」と検索に入力するとその次に「○○」と当時の人事担当者がでるくらいの有名な不祥事です。
2011年3月11日の東日本大震災直後、トンボ鉛筆の人事が上から目線で、「被災者も事情を考慮せず、エントリーシート等の締切(数日後)厳守。方法は自分で考えろ」という趣旨のメールを送って炎上しました。
人事の○○さん(日本で非常に多い名字)も、震災という未曾有の事態で一時的にハイテンションになっていたのかもしれませんが、状況的に最悪でした。
しかし、この不祥事は上司のリスクヘッジで延焼せず、トンボ鉛筆の業績には大きな影響を与えませんでした。
即座に「事情を考慮します。すみません。○○は驕り昂ぶり言語道断」と人事を切って捨てて謝罪したので会社自体への大きな批判になりませんでした。
社員の不適切な行動、言動について即座に対処できたのが大きかった事例です。
アリさんマークの引越社のパワハラ
2017年「ブラック企業大賞」を受賞した不祥事です。書いていても非常に気分が悪くなります。
営業職だった男性社員をシュレッダー係に配転し、「追い出し部屋」のようにして単純作業しかやらせず(新興宗教の洗脳の手口)、懲戒解雇を言い渡し、犯罪者、お尋ね者のように「罪状」として顔写真を張り出すなどした。
都労委は、これらは労組に入ったことをきっかけにしたもので、会社の行為は「不当労働行為」と認定されました。
従来ならばよくあるブラック企業の悲劇として終わりましたが、ブラック企業大賞というネットで話題になりやすい素材となり、不祥事として拡散されました。
不祥事を未然に防ぐためにできること
このような不祥事は起こさなければ、火消し、鎮火をする必要もなく、法廷闘争に持ち込まれることもなくなります。
不祥事を防ぐためのどのような対策をすればよいのでしょうか?
社員へのコンプライアンス教育
不祥事を起こすと会社が傾き、自分たちの待遇が悪化してしまう。
社会的に批判されるようになると、結婚や転職にも影響する。脅しに近いのかもしれませんが、不祥事は自分が直接かかわっていなくても、自分たちの生活や将来に大きく影響することを知ってもらう、そうしたコンプライアンス教育が必要です。
不祥事によって、会社の存続にかかわったケースは数々あります。
社員一人一人の菌プライアンス意識の醸成がとても大切です。
内部通報制度の導入
社員の心構えだけではなく、制度面からもコンプライアンス順守を担保することが大切です。
内部通報制度の導入によって、社員の上司や会社上層部への忖度が排除できます。
本当に不祥事になりかねない事案があっても、自分の地位が危なくなることを恐れて誰にも言えない正義感を持った社員はいます。
彼らの地位と匿名性を守ることで、不祥事の種を発芽前に摘み取ります。
また、不祥事の原因、ルートが明確になります。
「腐ったミカン」が誰か、どの部署か明確になります。
内部通報制度の制度化を果たしている企業は、投資先としての評価も上がります。
資金調達の手段を多様化し、融資以外のエクイティファイナンスを考えている場合、内部通報制度があると、資金調達しやすくなります。
内部通報による不祥事の告発は結果として、企業にとって重大なダメージになるものもあります。
しかしそれを放置すると致命的になります。
通報者が社内で解雇や追い出し部屋などに配置されることを防ぎ、最小限のリスクで不祥事を防ぐためにも、内部通報制度は必要です。
定期的な内部監査の実施
社員からの自浄作用だけに期待してはいけません。
不祥事対策は専門部署による内部監査も必要になります。
担当業務とは利害関係のない独立した監査部署に権限を持たせて、不祥事についてチェックします。
その監査担当部署が腐敗する可能性もあります。場合によっては外部監査なども行いましょう。
いずれにせよ、特定の人を忖度する空気が蔓延していると、内部監査もうまくいかなくなるかもしれません。
やはり「独裁者」を作らないことが何よりも大切なのでしょう。
消費者、ユーザーからの相談窓口を設置
B2Cの企業は特に有効な手法です。
お客様相談センターなど消費者、ユーザーからの連絡や相談を受け付ける窓口を設置します。
そこに寄せられた意見を社内でチェックできる機会を設けましょう。
もちろん、その担当者が腐敗していれば、消費者からの意見は黙殺されてしまいます。
結局対策責任者がコンプライアンス意識を持っていて、清廉潔白であることが何より大切です。
不祥事は一瞬で世界中に広がる時代!企業の対策は今まで以上に重要になります
「バイトテロ」があれだけ騒がれたのは、画像や動画付きでSNSによって拡散し炎上したことが大きいのは言うまでもありません。
以前のようにマスコミ対応だけを考えていては、炎上を止められません。
より迅速に対応し、納得いく対策を打ち出せないと不祥事はどんどん企業にダメージを与えておきます。
不祥事メールの後、即刻謝罪し「驕り昂ぶり言語道断!」と切って捨てるあの対応は正しかったのです。
当時よりもよりスピード感が求められます。
社内からの告発もいきなり内部通報制度を無視して、SNSや炎上系インフルエンサーに動画付きで渡される可能性もあります。一度火が付くと止められないのが今の不祥事です。
さまざまな人によって焼き畑にされ、興味がなくなったら放置、あとは不祥事の印象だけが残るという結果になってしまいます。
そうなる前に、不祥事の初期消火ができる対応が必要になります。
ぜひ今から不祥事対策について取り組みを始めてください!