企業の風評被害について 過去の事例から学ぶリスクを未然に防ぐ方法とは

企業の風評被害について 過去の事例から学ぶリスクを未然に防ぐ方法とは その他リスク

SNSの発達によってこれまでとは比べ物にならないスピードで情報が拡散する時代になりました。

拡散した情報がポジティブなものであれば、「バズり」となり一気に自社のイメージアップにつながります。あの話題となった映画『カメラを止めるな!』も最初はわずか2館での上映だったのは意外に知られておらず、ネット上の拡散によって上演感がどんどん増えていきました。

その逆が「炎上」です。SNS上の炎上、ネット上の炎上は枚挙にいとまがありませんが、その炎上の中でも風評被害は企業に深刻なダメージを与えます。

風評被害はネットがない時代からあるもので、積極的に対応しないとネガティブな印象のまま消費者のマインドに定着してしまいます。

今回は根拠のない書き込みやデマで企業が風評被害を受けるリスクについて、どういった影響を及ぼすのか、企業ができる対策を過去に起きた事例を交えて解説していきます。何が発端で風評被害が起きるかわかりません。ぜひ積極的な対策をお願い致します。

風評被害とは何か?

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風評被害とは事実無根のうわさやデマが広がることで個人や企業にマイナスのイメージが広がり、商品やサービスに問題がないにもかかわらず、その売れ行きに重大なダメージを受けることを指します。

食品への異物混入や食中毒事件など、実際に不祥事を起こしてネガティブなイメージが広がるのとは区別されます。風評被害を受けた企業に落ち度はなく、完全にもらい事故になります。

風評被害は誹謗中傷による企業イメージの低下とは区別されます。誹謗中傷は特定の個人や団体が企業イメージを悪化させようと、不祥事をでっち上げネットなどで拡散しますが、風評被害の多くは特定の個人や団体の悪意というよりも、善意、何気ない言葉が「そうに違いない」とある種の共感を呼び広がってしまいます。

大地震が起きた時などにデマが拡散し風評被害が発生します。関東大震災の時のデマは有名ですが、東日本大震災や熊本地震のときにも数多くのデマが拡散し、風評被害をもたらしました。

災害に乗じてデマを拡散し社会を混乱させたいという悪意は少なく、多くが不安や善意、正義感に基づくものなので、特定の個人を批判できません。

風評被害につながる災害デマについてはNHKの特集ページをご覧ください。

“災害デマ”はなぜ拡散するのか 「善意」が被害を拡大させる|災害列島 命を守る情報サイト|NHK NEWS WEB

風評被害の例を紹介

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実際にはデマ、真実ではなかったのに風評被害によってネガティブなダメージを受けてしまった事例を紹介します。

新型コロナウィルス関連の風評被害

2020年より世界的に流行した新型コロナウィルスでは、多くの施設が「感染を拡大させた」と風評被害のターゲットになりました。

「コロナ」という名前の企業はもちろん風評被害を受けました。
また、当初感染者が行ったとされる施設、ライブハウス、屋形船、スポーツクラブ等には過剰な批判が集まりました。

また、政治のパフォーマンスで次々ターゲットにされていく業界、パチンコ店、「夜の街」、「接待を伴う飲食店」などもワイドショーの過熱もあり大きなダメージを受けました。
パチンコ店はまったくクラスター(感染者集団)が出ていないにもかかわらず、「悪の業界」のような報道がメディアスクラムによって引き起こされました。

オウム真理教事件による風評被害

世界中を震撼させた一連のオウム真理教事件でも風評被害が起きました。
オウム真理教は、事件後、教団名を「アレフ」に改名しましたが、そのアレフを社名にしている会社が存在しました。

当然まったくオウム真理教と関係ないのですが、関連を疑われ風評被害が発生しました。
その会社はHPなどに「当社はオウム真理教とは関係ありません」という記載を25年以上経った現在でも掲載せざるを得ない状況になっています。

ただし社名を変えず、そのままでいるのは企業の矜持として大いに共感できます。

台風によって被害を受けた武蔵小杉のタワーマンションの風評被害

2019年に関東を襲った2つの台風は、記録に残る甚大な被害をもたらしました。
この時に起きた風評被害は武蔵小杉のタワーマンションでした。

台風によって断水し、上下水道が使えなくなったタワーマンションがいくつか武蔵小杉にありました。下水道が壊れ、排泄物なども散乱したと言われています。
武蔵小杉にあったタワーマンションの1つが排泄物を連想させるもので、一気に風評被害が広がりました。

なお、そのタワーマンションは上下水道とも問題なかったのですが、武蔵小杉自体が不潔なイメージで上書きされてしまいました。

船場吉兆食品偽装によるの風評被害

「ささやき女将」が話題になった料亭「船場吉兆」の食品偽装事件の風評被害です。
船場吉兆では、お客さんが食べ残した料理を再利用して、他のお客さんに提供して大問題になりました。

飲食店としてのモラル、衛生管理(お刺身も再利用していました)、会見でのあの応対すべてが最悪でした。船場吉兆だけが叩かれるならば自業自得でしたが、「吉兆」の名前が付いた他の料亭、あるいは割烹、料亭全体にネガティブな印象が植え付けられてしまいました。

「どの高級料亭も同じことをしているのでは?」という風評は長く残ってしまいました。
食べ物関連の風評被害の払しょくには非常に長い時間を要します。

ロシアによるウクライナ侵攻によるロシア関連店の風評被害

ロシアによるウクライナ侵攻が世界的な非難を集めていますが、国内のロシア料理のお店(あるいはロシアの雑貨店)などにも批判が殺到したようです。

しかし批判した人が悪意を持った人であるかというと、そうではなく、正義感の強い善人なのでしょう。これが誹謗中傷とは違う風評被害の問題です。

これにより、ロシア料理を「ユーラシア料理」などに変えて提供しなければならない状況も生まれています。
ロシア、ウクライナ情勢に限らず、国際情勢の影響はその国や地域を売りにしているお店にとっては避けられない風評被害になり得ます。

これ以外にも風評被害はあります。いうまでもなく原発事故の風評被害で、福島県産の農作物はダメージを受けています。

風評被害の影響

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風評被害が発生すると企業経営に大きな影響を与えます。

ブランドイメージの低下

不祥事ではないので、行政罰などを受けることはありませんが、事実無根の風評被害によってブランドイメージが大きく毀損されます。

ブランドイメージの低下によって「○○社の商品はやばい」ということになり、売上が大きく減ってしまいます。

結果的に社員のモチベーションが下がり退職する人が増え、人材が流出します。入社希望者も減り、中の人材の質も下がって悪循環に陥ります。
株価が下がりますので、資金調達にも影響します。

売上がどんどん落ちていき、倒産へのカウントダウンが始まってしまいます。
ネットの誹謗中傷もそうですが、最初の悪意ある書き込みは一気に拡散しますが、訂正、無実の書き込みはまったく拡散しません。

裁判で無罪になっても、その情報が上書きされることなく、ネガティブなイメージで固定されてしまいます。

一度毀損されたブランドイメージの回復は、かなり大変です。
そうならないように風評被害を発生させないように予防すること、発生した時の迅速な対応が不可欠です。

経営者のイメージが悪化する

風評被害を受けるのはは会社の商品やサービスだけではありません。
会社の代表者のイメージ低下も招きます。

ブラック企業で有名になってしまった企業は、社長そのものがコンプライアンス違反のアイコンになってしまうからです。

事実無根のウソを流されると「あの社長は反社会的勢力だ」「あの人は過去に犯罪歴がある」「あの人は過去に女性問題で離婚した」など尾ひれがついて事実を否定できなくなります。
反論して訴訟して事実ではないことが認定されても、代表についたイメージを刷新することが非常に困難になります。

業界全体がダメージを受ける

上述の船場吉兆もそうですし、最近の「寿司テロ」(あれは明確な被害ですが)などである会社に対して風評が広まると、同じ業種、業界も巻き込まれてしまいます。

風評被害の原因とされた商品だけではなく、自社の他製品にも疑惑の目が向けられてしまいます。
あるいは金融機関への取り付け騒ぎや株価の低下(売りが殺到)など自社の資本に対しても甚大な影響が出てしまいます。

風評被害対策は?事実無根の情報が拡散されたらどうする?

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火のない所に煙が立ってしまうのが風評被害です。
100%風評被害を防げませんが、ある程度対策を取り、もし何かあった時には迅速に対応できるようにしましょう。
初期消火がうまくいけば、風評被害のダメージを最小限に抑えられます。

プロの専門家に依頼する

風評被害やネット炎上に詳しい専門家に対策を依頼します。
法的措置は弁護士(あるいは弁護士法人)にしかできませんが、ネットの書き込みチェックや初期対応のアドバイスは非弁護士でもできます。

コンプライアンスに沿って適切に対応すれば、大事にはなりません。
拡散、炎上前の段階で風評被害の芽を摘むことができるかもしれません。

弁護士に依頼する

企業の顧問弁護士とコミュニケーションを積極的に取っておきます。
何かあった時に迅速に動いてもらえるよう、事前に依頼しておくのが対策として重要です。

風評被害の原因となった書き込みや動画の削除依頼や発信者情報開示など法的手続きを速やかにできるよう、弁護士と事前にしっかり打ち合わせておきましょう。

風評被害の初動対応を間違わない

いざ事実無根のネガティブな情報が流れてしまったら、専門家や弁護士と相談しながら迅速な初期対応をします。これが成功すれば風評被害が広まずに鎮火できます。
これは、風評被害だけではなく、不祥事(事実として起きてしまったネガティブ事案)への対応にも共通します。

  1. 事実関係の確認
  2. 声明文の発信
  3. 書き込みや動画の削除依頼
  4. 法的措置の検討

様子を見てはだめで、速やかの事実確認を行ってください。
また、社長やそれに準ずる人の名前で「本件は事実無根でしかるべき対応をします。
お客様に置かれましては安心してください」という声明をHPに掲載、またプレスリリースなども速やかに行い、マスメディアから風評を否定してもらいます。

書き込みや動画が風評被害の原因となった場合は、同時にSNSや動画サイトに削除依頼をして見られないようにします。
書き込みや動画アップした人に対しては、個人情報開示請求や訴訟、威力業務妨害での警察への相談なども行います。

迅速にかつ徹底的に情報開示し、企業側に落ち度はなく事実無根であることをアピールします。
風評被害の原因を摘むことが大切ですが、全部なくすことは不可能であり、初期消火ができるような法的対策、社内の連絡体制等の整備が何より重要になります。

事前対策と初期消火で風評被害リスクを可能な限り減らしておこう

事前に対策しても、社内不祥事よりもリスクを減らせないのが風評被害です。
しかし、可能な限りの事前対策と、火種のうちの初期消火で企業へのダメージを最小化できます。

いつどこで風評被害が起きるか誰にも予想付きません。
災害、国際情勢など個々の企業だけではどうしようもないこともあります。

もらい事故はゼロにできませんが、少しでも減らせるよう取り組みをお願いします!

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