企業に顧問弁護士は必要?具体的な役割や費用はどのくらい?

企業に顧問弁護士は必要?具体的な役割や費用はどのくらい? 法務リスク

コンプライアンス意識の高まりや訴訟の増加などで企業の法務部はこれまで以上に重要な役割を持つようになっています。

外からの自社への攻撃だけでなく、社員によるSNSの炎上など法的な対処を迅速に行う必要はますます大きくなっています。

しかし、中小企業が顧問弁護士と契約するのは費用面でも負担が大きそうです。特定の弁護士と顧問契約せずに何かあれば単発で弁護士に依頼するのではだめなのでしょうか?

今回は中小企業に顧問弁護士は必要なのかメリットやデメリット、費用面なども踏まえて考えていきます。みなさまの会社の判断のための情報提供をいたします。

顧問弁護士の役割とは?

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会社が顧問弁護士と契約する意味、顧問弁護士の役割とは何なのでしょうか?

法的トラブルが起きる前に防ぐ「予防法務」

顧問弁護士の最大の役割は、実際に訴訟などを起こさないことにあります。法的トラブルが起きなければ会社経営は順調に進みます。法的トラブルを起こさない「予防法務」が顧問弁護士最大の役割です。

具体的には

  • 契約書のリーガルチェック
  • 人事労務対応(未払い残業、過重労働、有給休暇取得、セクハラ、パワハラ、メンタルヘルス)
  • 知的財産権管理
  • SNSなどネット上の炎上対策

これらが中小企業の顧問弁護士の大切な仕事です。

内部からも外部からも「刺されない」体制を構築することで、経営基盤は安定します。顧問税理士が日々の会計をチェックするのと同様に、顧問弁護士は日々の法的リスクを低減するような働きをします。

実際に不祥事や訴訟などが起きた時の対応

予防法務実際に訴訟を起こすとき、起こされたときには顧問弁護士が大活躍します。社内について詳しいので、新しい弁護士へスポット依頼するよりも効率的です。

訴訟だけでなく、社内で不祥事があり、謝罪会見やマスコミ対応する場合も、弁護士のアドバイスが不可欠です。

弁護士がいい加減だと、不祥事対応に失敗した数々の会社のように悲惨な末路になってしまいます。最悪、会社がなくなってしまうわけで、顧問弁護士が法的にもコンプライアンス的にも問題なく、誠実な印象を与える対応を指示します。

スポット弁護士ではその会社に思い入れもないので、「塩対応」になるかもしれません。顧問弁護士ならば自分の顧客であり、自身の信頼にもかかわるので、積極的な対応が期待できます。

最新の会社経営に関する法的なチェックやリスクヘッジ

具体的な法的トラブルが発生していなくても、会社経営を行っていれば、契約関係を中心として、最新の法令を伝え、それに適合した形に変えていかなければなりません。税制と同じく法律もどんどん変わります。

顧問弁護士がいれば、新しい法律や制度への適用、対策も容易になります。

例えば、2022年だけでも

  • 育児介護休業法改正による育児休業制度の整備や育児介護休業規程の改定
  • 個人情報保護法改正による「プライバシーポリシー」の改定
  • 労働施策総合推進法改正による、ハラスメント相談窓口の設置
  • 道路交通法改正による運転者のアルコールチェックの義務化

など、企業経営をするうえで知って、対応しなければならないことがこれだけあります。

顧問弁護士がいなければ、この改正を知っていましたか?知っていたとして対応に着手できましたか?もし、対応していなかった場合、いきなり内部通報されて、行政機関からの取り締まりが入る可能性もあります。

こうしたリスクを減らすのが顧問弁護士の仕事になります。

企業経営の方針に関する助言

弁護士、特に企業法務に強い人は、他社の事例(成功も失敗も)見てきているため、法的観点から経営に関してアドバイスできます。

弁護士の言いなりになるということではなく、成功や失敗に学ぶ材料を提供できます。大きな決断には法的リスクも伴います。それらについて法律の専門家の立場から、具体的なアドバイスができます。

顧問弁護士と契約するメリット、デメリット

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何か起きた時に単発で弁護士へ依頼するのではなく、顧問弁護士として継続的に契約するメリットを考えます。また、その場合、デメリットはあるのでしょうか?

顧問弁護士と契約するメリット

顧問弁護士と契約するメリットはいくつもあります。上述の顧問弁護士の役割がそのままメリットになります。

トラブルの防止、予防法務

日常的に弁護士相談できるので、予防法務が実践できます。何気ない法律相談意外にも契約書などのリーガルチェックも基本料金(月額報酬)の範囲内で受けられます。

請求書ひな形についての依頼もできますし(これは別途料金が発生します)、社内規定や就業規則を整備する際にも、社会保険労務士に渡す前に、法律に適合したものかチェックできます。

コンプライアンス違反があり、それが外部に流れると大変なことになりますが、それも日常的なチェックで防げます。

顧問弁護士がいないと、トラブルが起きてからの弁護士相談になりますが、顧問弁護士がいることで日常のルーチンとして法的なチェックを受けられます。これが予防法務につながります。

問題やトラブル発生時にすぐ相談できる

何か起きた時は初動が大切です。初動がうまくいけば、炎上、拡散せず、最小限の被害で済みます。初動対応に失敗した会社や組織の事例はいくらでもありますが、初動対応に成功した事例はあまり知らないですよね。

成功しているから知られずに済んでいるのです。顧問弁護士の重要性、メリットがそこでわかります。

秘匿性の高い重要な決断を相談しやすい

情報漏洩しては困る社内の重要事項、M&Aは企業買収など重大な経営決断、社内の重大な不祥事対応など、秘匿性が必要な案件について、法律の専門家としてのアドバイスを仰げます。

発覚してからの対応ではなく、発覚する前にダメージコントロールでき、かつ風評被害にならない方法を相談できる顧問弁護士がいるのは大きなメリットになります。

リスクの高い契約について相談可能

大型案件や、その相手が問題ありそうな会社や団体の場合、契約すべきなのか、契約した方がリスクは高いのか相談できます。

数億円のプロジェクトですが、契約内容が自社に不利になっている、失敗した場合のリスクを相手ではなく自社が被るような契約書もあります。金額だけ見て契約するのは危険であり、一見すると「おいしい」契約でも落とし穴があるかもしれません。

顧問弁護士に相談することで、契約書の記載内容だけでなく、相手先の評判やこうした取引先と契約するリスクなどについて総合的な知見を得られます。これは大きなメリットです。

顧問弁護士がいることが会社の信用につながる

会社として「顧問弁護士がいます」と対外的にアピールできます。コンプライアンスについてもしっかり理解し、世の中の流れについて行っていることを伝えられるので、結果として会社の信頼度アップにつながります。

経営者として少なくとも無能でないことは伝わるはずです。

顧問弁護士と契約するデメリット

顧問弁護士と契約するデメリットは多くなく、顧問契約料くらいです。高ければよいというものではなく、顧問契約報酬が安くても有能な弁護士はいます。ここを抑えられればデメリットは解消します。

あと、顧問弁護士の中には、会社の事業などにおけるコンプライアンス上の問題や法的リスクを指摘する人もいます。顧問弁護士として違法行為や著しいコンプライアンス違反は見過ごせません。

こうした「諫言」してくれる存在を疎ましく思う経営者は、顧問弁護士をデメリットと考えるかもしれません。しかし、諫言する人がいないワンマン企業はたいてい悲しい末路になるでしょう。

顧問弁護士と契約するための費用

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中小企業の顧問弁護士契約に必要な費用ですが、顧問税理士と同額かそれよりもやや高い程度になります。

つまり、月額30,000円(+税)~高くても月額100,000円(+税)で日常的な法律相談(電話、メールなど)に加えて、契約書や就業規則、利用規約等のチェックについても行ってくれることがほとんどです。

ただし、契約書の「作成」が、法的トラブルの解決(法的交渉、調停、あっせん)、実際に訴訟になった時の弁護士費用などは別額になります。とはいえ一から新しい弁護士に依頼するよりも、その会社について詳しいのですから、自社について説明する時間の報酬なども大幅に抑えられます。

何より、実際に法的紛争が起きないような「予防法務」こそが顧問弁護士の役割ですので、それがしっかり果たされれば、追加報酬が発生する事態は、契約書の作成などを除き大きく減らせるはずです。

30,000円~100,000円の月額弁護士報酬は高くないと言えます。

中小企業に顧問弁護士は「必要」!

結論としては中小企業においても、顧問弁護士は「必要」です。自社に法務部があり、契約書の作成やリーガルチェック、コンプライアンスについては(法曹資格を持つ)社員にゆだねられる大企業と異なり、中小企業で法務部を持つのが現実的には難しく、オールマイティーな法的事項について、顧問弁護士が必要なのです。

契約書の作成、リーガルチェックや、取引先とのトラブルの対応、社内人事労務面の条件整備、時間外労働や有給休暇、セクハラ、パワハラへの社員対応、民法や商法などの法改正への対応、あらゆることが弁護士に相談しないとうまく進みません。

したがって、常に相談でき、かつ自社のことをわかっている顧問弁護士が必要になります。会社であれば顧問税理士は当然いるはずなので、彼らと同じくらいの重要性で顧問弁護士をとらえてください。

今の時代、内からも外からも法的なリスクは存在します。常に相談でき、紛争を予防できる顧問弁護士は必須の存在です。3万円台の月額報酬で顧問契約を引き受ける弁護士もいます。費用的に厳しい場合は、その価格帯の弁護士でも構いません。

顧問弁護士が「いる」のと「いない」では非常に大きな差があることを知ってください。

顧問弁護士がいらないケースはある?

毎月数万円の顧問弁護士報酬が重荷になる会社もあります。

  • 個人事業主
  • 社員数名の家族経営の中小企業
  • 固定客中心で新しく契約書を結ぶケースが少ない
  • 就業規則等を整備しなくてもよい会社(10名以下)
  • 毎月の売上数十万円

こうしたケースならば、何かあった場合弁護士とスポット契約でも良いでしょう。町の個人商店や個人飲食店、一人でやっているフリーランが顧問弁護士と契約するのは、費用面でも厳しく生活に支障が出てしまいます。

こうした小さい会社や個人事業主ならば、例えば「一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会」のように会員向け法律相談サービスを受けられるところもあります。

同業者の組合などで法律相談していることころや、商工会議所の弁護士相談も無料で活用できます。

こうしたリスクヘッジを用意すれば、会社の規模によっては顧問弁護士を持たなくても何とかなるケースもあります。弁護士報酬で生活できないのは本末転倒です。

顧問弁護士は必要で、強くお勧めしますが生活を圧迫してまで契約する義務ではありません。

まとめ

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中小企業において顧問弁護士は必要です。法務部を持たない中小企業にとっては、法的な事柄についてオールマイティーに相談できる専門家が不可欠です。それが顧問弁護士になります。

顧問弁護士によって予防法務を実施し、大きな訴訟や法的紛争にならないようにするのが大切です。コンプライアンスが厳しく求められる現代にあって、一度のトラブルや事件が自社の経営や信頼に大きな影響を与えるケースが増えています。

知的財産権や社内の人事労務管理など、かつての日本の会社では比較的見過ごされてきたことも現在では企業が生き残るうえでの最重要事項の1つになっています。中小企業も例外ではありません。

顧問弁護士報酬は毎月数万円で済みます。数万円でこれまで築き上げてきた信頼やブランドが失墜するリスクを減らせます。健全で透明な中小企業経営のためには、顧問弁護士によるチェックは不可欠であり、ぜひ顧問弁護士との契約を検討してください。

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