企業が会計不正を行うケースが目立っています。
内部通報者を保護する「公益通報者保護法」が2006年に施行されて以降、国内の不適切な会計・経理=会計不正は増加傾向にありましたが、東京商工リサーチが2022年に発表した調査結果によると、2019年には上場企業(有価証券報告書提出企業)のうち、74社が会計不正を開示していました。
この数字は2020年、新型コロナウィルス感染拡大移行どうなっているのか予断を許しません。
各種コロナ対応の補助金、休業や自粛の保証金、給付金などの受給のため、不正会計をして摘発されるケースも今後目立ってくるかもしれません。
ここ数年の経済社会情勢から、不正会計は増える方向にあっても減る方向にないというのが正直なところでしょう。
今回は企業の会計不正がなぜ起きるのか、その原因やどのようなケースに発覚するのか考えます。
また、会計不正が明るみになった過去の事例についても紹介し、会計不正とどのように向き合えばよいのか考える材料を提供します。
会計不正とは何?不適切とは違うのか?
会計不正とは「意図的に財務諸表の数字をいじり虚偽表示を行うこと」を指します。
粉飾決算や不適切会計と似ていますが、これらは以下のように異なります。
- 会計不正……財務諸表に虚偽表示を意図的に行うこと
- 不適切会計……財務諸表への虚偽表示が意図的かどうかは不明
- 粉飾決算……赤字の財務諸表を意図的に黒字に見せること
会計不正は経理をめぐる不祥事の中でも悪質度が高いものです。
最初から意識的、意図的に決算書等の内容を改ざんするものであり、過失やうっかりミスで不適切会計となってしまった場合と異なります。
不適切会計は、故意、過失、ヒューマンエラーが含まれます。
会計不正は不適切会計の1つですが、不適切会計だから会計不正にはなりません。
粉飾決算は、意図的に虚偽の財務状況に改ざんする点においては会計不正と同じですが、黒字に見せるためより積極的に架空の利益計上や売り上げ時期の改ざんなどを行い、「会社の利益が増加したように見せかける行為に絞っている」ことを指します。
粉飾決算⊂会計不正⊂不適切会計
という関係です。
粉飾決算ならば会計不正かつ不適切会計になります。
会計不正には以下の類型があります。
横領
「会社の財物を無断で自分のものにする」行為を指します。
「業務上横領」の場合、業務でかかわったものを不正に自分のものにすることです。
横領はさらに
- 着服……架空請求した経費を自分のものにすること
- 横流し……会社の備品や製品を盗み、オークションサイトなどで販売すること
- キックバック……取引先に渡す謝礼金や売上額に取り分を上乗せすること
の3つに分けられます。
通常の売上の水増し
実際には売り上げがないのに架空売上を計上して業績の好調さをアピールする方法です。
不正という意味では分かりやすいケースです。
循環取引による売上の水増し
複数の企業間で商品やサービスを取引して架空の売上を計上します。
実際には商品やサービスを動かしていないのに、帳簿や書類を捏造して売買が行われたように見せる手法です。
費用の先送り
費用として処理するべきものを計上せず、利益が上がっているように見せ掛けるパターンもあります。
利益=売上-経費なので、経費(費用)を計上しなければ、その分利益が出ていることになります。
会計不正が発覚した時に受けるペナルティ
会計不正が発覚した場合、経営者や実際に会計不正を行った人物には刑事、民事双方のペナルティが下る可能性があります。
どのような原因、事情があろうとも会計不正に手を染めてはいけません。
会計不正の刑事責任
会計不正をした場合、刑事告発され、逮捕、被告人になる可能性があります。最悪懲役刑で刑務所入りです。
1.違法配当罪
粉飾決算により余剰金配当をした場合、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金
2.特別背任罪
粉飾決算による余剰金配当が、経営者や役員の利益を狙ったものの場合は、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金
3.有価証券報告書虚偽記載罪
有価証券報告書の重要事項に虚偽の記載がされている場合は、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金
かなり重い罪になります。
不正会計の民事責任
民事でも損害賠償責任を負うことになります。
不正会計の代償は大きすぎると言えるでしょう。
1.会社法第462条
粉飾決算により違法に会社の余剰金が配当された場合、受け取った利益分を会社に賠償する義務
2.会社法第429条
役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う
3.金融商品取引法第24条の4
役員などが有価証券報告書の重要事項に虚偽の記載をし、その事実を知らない者が有価証券を取得して損害が生じた場合に賠償責任を負う
民事の場合、会計不正が発覚して株主や取引先に損害を与えた場合、どのくらいの賠償額になるのか想像するだけで怖いです。
会計不正が起きる原因
会計不正はなぜ送るのでしょうか?正々堂々赤字決算しても良いのではないでしょうか?
具体的な原因としていかのようなことが挙げられます。
経営責任やプレッシャー
経営者自身、あるいは役員が業績不振を株主や金融機関、取引先などに開示されるのを恐れて、会計不正に手を染めてしまいます。
「○年計画が達成できない」「株主総会で約束したことができない」
批判を恐れて、ウソを重ねてしまいます。その場しのぎの対応ですが、一度会計不正をしてしまうと罪悪感がなくなっていき常習化してしまいます。
不正が発覚しにくい環境
経営者に諫言してくれる同僚がいない等、全体主義の絶対君主になってしまうとあらゆる不正がまかり通ってしまいます。
誰も自分を批判しない、できない、させない環境を作ってしまえば、あとは会計不正を隠ぺいするだけです。
株主や取引先、金融機関も見て見ぬふりをしているケースもあります。
ただし、このパターンは内部通報制度の法的保護により、告発されやすくなっています。不正をしているのですから当然です。
会計不正を正当化する倫理観
昔問題になった「官官接待」のように全員の倫理観が歪んでいるケースです。「どこでも上常識」「みんなやっているから」という価値観で会計不正が当たり前のことになっています。
傾企業文化として株価・業績・社外評価を過度に重視する体質を持った企業はコンプライアンス順守よりもその場を取り繕えばよいという価値観になってしまいます。
自社の業績が望ましくないものであれば、全社的にそれを許容し「なぁなぁ」で済ませる空気が蔓延しています。これでは腐ったミカンが伝染してしまいます。
会計不正はなぜバレる?
会計不正が発覚、バレる理由は会計監査が厳しくなっただけではありません。
経営監視の体制が強化され、また、内部通報制度が浸透したことも、不正会計が表面化しやくなる原因と考えられます。会社のことを考えている社員が、自分の立場を守りながら会計不正を告発しやすい環境になりました。
そもそも会計不正をしている段階で重大な違法行為、脱税にもつながる悪質な事案であり、内部通報の風潮に文句は言えないはずです。よりコンプライアンス重視の世の中に変わってきている事実をしっかり認識してください。
適切な会計処理を行うことは会社の責務であり義務です。
法律に則って適切な会計をしてその結果を引き受けるだけの覚悟が経営者には求められます。
会計不正で今まで築き上げた信頼を失ってしまうのは、非常にもったいないです。
たとえ業績が悪くても堂々と公開したほうが、最終的には自社にプラスとなるはずです。
過去の会計不正事件、事例を紹介
過去に起きた会計不正事件の中で有名なものを3つ紹介します。
東芝
東芝の評判を地に貶めた2015年に発覚した重大な会計不正事例です。
東芝は日本商工会議所、東京商工会議所の前会頭企業であり、経済界の重鎮のおひざ元がこのような愚かな行為に手を染めていたことで大きな批判を受けました。
東芝は会計不正により、7年間で累計2,248億円の利益を水増していました。
そうしたこともあり、家電の売上低下、原発輸出の失敗なども続き、以前の東芝のイメージから大きくダメージを受けます。
結果的に『サザエさん』のスポンサーも下りざるを得ないところまで経営は悪化していくことになります。
東芝は長らく経営不振の状況があり、従業員に過大な利益目標を課していたりしたことで会計不正を行ってしまった背景もあるようです。
カネボウ
2005年に発覚したカネボウの不正会計事件です。
こちらは内部統制の厳格化によって発覚した自浄作用によるものです。
旧経営陣の放漫経営に危機感を持った当時の経営陣が社内に、経営浄化調査委員会を設置していたため、会計不正が見つかり、当時の経営陣が旧経営陣を告発したものです。
会計不正を主導していた旧経営陣への責任追及にとどまらず、監査を担当した監査法人も粉飾決算に関与していたということで、監査担当の公認会計士が4人逮捕されました。
会計不正で逮捕まで行く事例になっています。
グレイステクノロジー
2018年に東証一部上場した、マニュアル制作会社のグレイステクノロジー株式会社による会計不正事件です。
この会社は結果的に、四半期報告書の不正が発覚し、2022年には東証一部上場廃止となりました。
株式市場で資金調達できなくなるという重大なペナルティを課されることとなりました。
架空の売上計上が常態化していたようで、2021年3月期には、売上高18億円のうち9.9億円が水増し、つまり利益の半分以上が不正会計によるものでした。
このような事例に至った原因として、元代表取締役が従業員に対して過度に売上目標ノルマを課していたため、その場しのぎでも会計不正に手を染めざるを得なかったようです。こうなると内部通報による自浄作用は絶望的です。
会計不正を防ぐためにできること
会計不正を防いでいくためにはどのような取り組みをすべきでしょうか?
ポイントをまとめました。
内部ルール、内部統制の構築
内部通報制度や独立した調査実行監査部門を整備します。
内輪でかばい合うことが会計不正を生む温床になります。
もう一度内部統制システムを見直し、不正が起きない、起きてもリカバリーできるようにすることが大切です。
内部でこのようなシステム構築が難しい場合は、外部から監査役を招へいすることも検討してください。
社員へのコンプライアンス教育の充実
社員にしっかりと会計不正は許されないというコンプライアンス教育、コンプライアンス研修を実施します。
上の指示で会計不正が行われる場合だけではなく、社員の立場で忖度して(気を利かせて)会計不正するケースも見受けられます。
社員一人ひとりの意識を高めるような研修を実施するとともに、不正を発見した場合の内部通報制度などもしっかり伝えてください。
「不正はいけない」だけでは、もし社員が不正を発見した時に責任に押しつぶされてしまいます。
不正を発見した場合、報告する手順についてもしっかりアナウンスすることが大切です。
まとめ
会計不正事件を起こしてしまうと、コンプライアンス順守の世の中に逆らうことになり、多大な批判を受けます。
このような会計不正企業と取引しようとするクライアントもいなくなり、会社経営は大きく追い込まれてしまうでしょう。
会計不正は外部監査だけではなく内部通報によって発覚したケースも増えています。
会社への(良くも悪くも)帰属意識が希薄になる中で、社員も以前のように黙っておくことができません。
本当にコンプライアンス順守を貫かないと、会計不正の原因を除去できません。
不正会計を許さないことが外部からの信用を得る近道です。
不正会計をして一時的に業績を良く見せても、バレた時のリスクに見合いません。
ぜひ過去の事例も参考に不正会計をしないような会社経営をお願いします。