企業活動を行う上で、適時適切なタイミングでの資金調達は不可欠です。
必要な時に必要な資金がないと、事業拡大ができず、いざという時の資金の支払いにも困ってしまいます。
従来の資金調達方法と言えば金融機関からの融資でしたが、それ以外の資金調達方法の確保は、経営へのリスクヘッジの意味で重要です。
融資によらない資金調達方法として、今回はIPOを紹介します。
IPOという文字だけ見ると、NPOとかSDGsのように難しい外見、環境問題なのかな?と思われるかもしれませんが、昔からある古典的な資金調達方法です。
注意点やポイントを押さえれば、比較的難しいものではありません。
しっかり理解していただき、融資以外の資金調達方法の選択肢を見つけておきましょう。
今回はIPOの仕組みやIPOを導入するにあたっての注意点、ポイントについて解説します。
IPOとは何?
IPOとは新規株式公開という意味になります。
株式会社の場合、未公開会社の株式は誰でも購入はできません。
しかし、IPOを用いて、株式市場(証券取引所)に上場することで、投資家や一般の方(我々も含めて)もその会社の株式を売買できるようになります。
トレーダーや投資家は安い株式を購入し、高くなった時に売ってその差益で利益を出していますよね。
IPOによって、その企業の株は未公開株式~株式市場に流通するようになります。
IPOによって、その企業の株は株式市場で売買されるようになり、そこで株式を購入されることで、資金が得られます。
株式を購入した人が株主になりますので、出資者にもなります。
融資は金融機関からお金を借りますが、IPOは個々の株主から直接資金を集めるというという違いがあります。
IPOはエクイティ・ファイナンスによる資金調達方法
IPOは株式市場での資金調達なので、資本(総資産)の増加を伴う資金調達方法です。
他者から「出資を受ける」形での資金調達になります。
最近話題のクラウドファンディングもこちらに該当します。
融資のように負債が増えません。また、返済義務もないのですが、メリットだけではなくデメリットもあります。
IPOは資金調達方法の中でも「エクイティ・ファンナンス」と呼ばれるものになります。
「エクイティ・ファイナンス」にはIPO以外にもさまざまなものがあります。
IPOを含めたエクイティ・ファイナンスは以下になります。
<エクイティ・ファイナンスの具体例> ・IPO(新規公開株)による資金調達 ・新株発行公募 ・株主配当増資 ・第三者配当増資 ・クラウドファンディング ・ベンチャーキャピタルからの出資 |
IPOを行うためには何をすればよいのか?IPOの注意点
IPOによって資金調達すると決めてもすぐに株式上場はできません。
少なくとも2期分の事業実績、決算書等を審査するため3年計画になります。
IPOは、どのような企業でもできるわけではありません。
各株式市場は東証1部や2部、マザーズ、JASDAQと複数ありますが、それぞれの市場で上場するための条件が定められています。
その条件を満たすことが最低限必要です。そしてその条件は結構なハードルになっています。
逆に考えると、株式上場しIPOできる段階で、市場から相応の評価を得ていることになります。
「あの会社は上場企業だから~」という言説がポジティブに語られるのも、上場企業はそれなりに厳しい基準をクリアしているという共通認識があるからです。
それではIPOを行うための株式上場の注意点とはどのようなものなのでしょうか?
しっかりした組織体制になっているか?
株式上場によってIPOを果たすためには、その会社が会社全体で組織運営を行っていることが大切です。
カリスマ経営者によるワンマン経営は、それ自体が否定されるものではなく、それによって大きくなった企業もあります。
しかし、ワンマン経営者の鶴の一声で決まるような会社は、IPOには不適格なため、上場を許可されません。
有能な経営者に属人的要素に頼って経営しているか会社は、その経営者がいるうちは良いのですが、いなくなった時に一気に傾くリスクがあります。
それを避けるために、組織的運営に耐えられるような仕組み作りが必要で、上場に当たってはそこを厳しくチェックします。注意点として、しっかりした社内体制整備がポイントになります。
適切な人事制度がある
IPOを目指すためには適切な人事制度が整備されていることも注意点として押さえておいてください。
ポイントは就業規則です。ご存知のように時間外労働や有給休暇について、一連の「働き方改革」によって大きく変わりました。
しかし、従前の就業規則をそのまま適用していて、有給休暇の一定期日の取得等を定めていない場合、IPO、株式上場の審査に落ちる可能性があります。
会社の就業規則が労働基準法を順守した内容であり、かつ会社で実際に運用されるために適当(ふさわしい)内容であることがポイントです。
給与規定や育児介護休業規定の整備の有無もIPO審査の重要なポイントになります。
また、残業規制なども適切に従業規則に落とし込んでいることが求められます。
36協定、時間外労働の割増賃金などもしっかり就業規則や給与規程に記載してください。
なぁなぁで済ませている部分があると、IPOは認められません。
一般株主から出資を募れるというのは、会社の経営についてしかりディスクロージャーしていることが大切です。注意点として押さえておいてください。
コンプライアンスが遵守されているか
労働問題(時間外労働や有給休暇取得)はもちろん、幅広い分野でコンプライアンスが順守されているかも、IPO審査の重要なポイントになります。
過去にコンプライアンス問題を起こしている企業は、新規株式上場が認められない可能性があります。
- 未払い残業、サービス残業
- 有給休暇所得(率)
これらは客観的な指標として評価されやすいものです。
労働基準監督署の調査の有無なども、コンプライアンス面で重要なポイントになります。
次に社会保険への加入有無です。正社員が社会保険や年金に加入していないのは論外ですが、1か月以上労働する見込みのあるパートタイマーや、アルバイトも条件次第で社会保険加入義務があります。
それを満たしておらず、未加入がバレると法令に違反したとして、IPOの審査通過ができなくなります。
社会保険の加入対象者のチェックとその人たちがきちんと加入しているか、確認が必要です。
過去に未払い残業代や労務管理(過労による精神疾患、自殺等)で問題があり、訴訟案件になっている会社、あるいはセクハラやパワハラなどハラスメントで問題があった場合、IPOの審査に落ちる可能性が高くなります。
ワンマン経営者の場合、そうしたハラスメントが起きやすく、内部チェックも働きにくいため、辞める社員が訴訟などを起こして問題になります。そうした企業は株式上場できません。
むしろ有名な上場企業であっても、株式市場からの退場を余儀なくされる案件であることを注意点として押さえてください。
社会の意識も10年前、20年前とは大きく変わっています。
時代に取り残され、アップデートできない会社と経営者は、株式上場によるIPOを使いこなせないと判断されてしまいます。
この点が重要ですので、ポイントとして必ずチェックしてください。
IPOのメリットとデメリット
IPOを行うメリットとデメリットについて理解しておきましょう。
表にまとめました。
メリット | デメリット |
返済義務がない | 株式を多数取得され、会社を乗っ取られるリスク |
資金使途が比較的自由 | 準備や審査に時間がかかる(3年以上) |
知名度向上 | 社内体制整備のコスト |
対外的な信頼度が上がる | 弁護士など専門家に依頼するコスト |
株価上昇による従業員への還元 |
メリットとデメリットをしっかり比較してください。
大きなデメリットは敵対的買収に代表される、会社経営への介入リスクです。それさえクリアできそうならば、資金調達方法の1つとしてIPOを考えもよいでしょう。
注意点は審査時間と、コスト、そして経営への株主の関与です。そこをクリアできれば、IPOはポイントを絞って有効活用できます。
融資などほかの資金調達方法も組み合わせてください。
IPOによるリスク回避のためには何ができるか?
IPO導入だけではどうしてもリスクがあります。
そのリスクをなるべく回避するための注意点、ポイントを紹介します。
専門家をつけよう
IPOを資金調達の手段として導入する場合、法的なサポートによってリスク回避することが不可欠です。確実に上場できれば良いのですが、そうならない(審査に落ちる可能性)もあります。
そのため、法的リスク回避のための弁護士や、上場後の経営見通し、資金繰りにアドバイスする税理士、経営コンサルタントなどを味方につけましょう。
上場を目指す際のリスクを整理し、具体的な対策を講じやすくなります。
上場にかかる時間と費用に対してコストが見合うか、そもそもIPOによる資金調達が絶対に必要なのかしっかり見極めてください。
上場するということは、株式を多数取得されて、会社を乗っ取られる可能性もあります。
また、IPOを行う際のポイントとして、法令遵守や内部統制を徹底する必要があります。
会社法、労働法、独占禁止法、金融関連法の知識だけではなく、実務にも詳しい人が求められます。
そのため、専門家は1人ではなく、複数の専門資格を持った人たちの協力を得ていきたいところです。
IPOや融資以外の資金調達方法も考えておく
IPOは融資に代わる有力な資金調達方法ですが、確実に上場できる保証はなく、また上場できてもデメリットである会社の乗っ取りや経営への介入リスクを考えなければなりません。
融資にはないメリットがありますが、デメリットも考えなければなりません。
資金調達方法には3つの分類があり
- IPO:エクイティ・ファイナンス
- 融資:デット・ファイナンス
と呼ばれています。もう1つ「アセット・ファイナンス」と言って、自社の資産をお金に換える資金調達があります。
不動産の売却、知的財産権の売却や売掛債権の売却などによって資金調達します。
アセット・ファイナンスは経営に介入されるリスクもなく、融資のように負債にもなりません。
とはいえ、不動産などを売るのは抵抗があります。
その中で、売掛債権の現金化を行う「ファクタリング」という手法が近年注目されています。
ここでは取り上げませんが、比較的低リスクの資金調達方法ですので、IPOでは難しい部分について、融資とアセット・ファイナンスで補完することも検討してみてください。
こうすることで、IPOについてポイントを絞った運用ができます。
IPOによって柔軟な資金調達方法を確保して、経営のリスクヘッジにつなげよう
IPOはその導入には高いハードルがありますが、株式上場すれば迅速な資金調達方法として活用できます。
融資によらないエクイティ・ファイナンスは負債を増やさず、自己資本を増やせます。
融資のように審査期間もなく、即時資金を調達し、必要な使い方ができます。
また上場企業ということで得られる社会的信用も大きく、メリットとして重要です。
上場企業の経営におけるアドバンテージや予想以上にあるので、ぜひ今後の選択肢としてIPOの活用をご検討ください。
そのためには注意点を理解し、デメリットや審査のポイントも押さえた上で、適切なタイミングで上場申請に取り掛かることが大切です。