コンプライアンス順守が叫ばれるようになり久しいです。
しかし、コンプライアンスについて意外に知らない方も多いはずです。
とりあえず「コンプライアンス順守」「コンプライアンス違反はしません」と宣言する企業は多いのですが、その行動について具体的な行動が伴っていないこともあります。
今回はコンプライアンス違反を起こさないために各会社何ができるのか、今一度基本に立ち返り考えてみます。コンプライアンス違反をしないことは、現在の企業大原則になります。
「コンプライアンス」の意味は?
「コンプライアンス」という言葉は、そのまま訳すると「法令順守」になりますが、法律を守っていればコンプライアンス違反ではないとはなっていません。
今の「コンプライアンス」はもっと広い意味で使用されます。
法律、法令順守
狭義のコンプライアンスです。日本の法律、自治体の条例、行政機関で制定される政令・府令・省令などを総称します。
これらに違反することはそもそも違法行為になります。
企業倫理・社会規範
法律や法令ではなく、倫理面で「それをやっては・・」というものです。
セクハラ、パワハラなどのハラスメント、顧客情報漏えい、データ改ざんなどは法律違反を問わずコンプライアンス違反とされます。
顧客対応で社長が傲慢な記者会見をしている姿が報じられますが、こういう姿勢もコンプライアンス的にまずいことになります。
社内規範、就業規則
就業規則は従業員が10名以上いる会社では作成と届出が義務付けられていますが、広く社内に共有されている規範も含めてコンプライアンスです。
法律ではないものの、社内の慣習などを意図的に、示威的に破り、特定の利益を誘導することなどはコンプライアンス違反になります。
このように「コンプライアンス」は現在、かなり広い概念で使われています。
法律にも道徳にも世間的に批判されるようなことはほとんど「コンプライアンス違反」と指摘されてしまいます。
コンプライアンス違反の事例を具体的に考えてみよう
コンプライアンス違反とはどのようなことなのでしょうか?
法令順守以外にも企業倫理や社会規範に違反するものも含まれます。さまざまな事例を紹介します。
労務管理
過労死(過労自殺も含む)や残業代未払いのケースです。
電通の過労自殺事件が社会にもたらして影響は大きく、かつて「残業は当たり前」だった日本の有名企業も残業規制に積極的に取り組むようになりました。
そもそも36協定以上の残業は違法であることを無視している企業は多く存在します。
また、残業代未払いについても、弁護士が積極的に従業員をサポートするメニューを提供しています。
かつてクレジットカードの過払い金請求をしていたのと同じ枠組みで、未払い残業代請求を行っています。
偽装
食品偽装、あるいは産地偽装、原材料偽装なども重大なコンプライアンス違反になります。
食品の生産地偽装や船場吉兆のようなケースは、身近な問題として生活者にとらえられるため、発覚した時のダメージが大きくなります。
口に入るもの、健康にかかわるものについては、本当に企業の存続にかかわる事態になりますので、注意してください。
不正受給
補助金や助成金の不正受給です。
コンプライアンス違反どころか、詐欺、公金横領で重大な刑事罰を受ける可能性があります。
震災関連の補助金、最近ではコロナ関連の持続化給付金や飲食店の時短協力金などの不正受給が摘発されています。
利益供与
大きなイベントをめぐって、主催者から賄賂をもらう、逆に過剰な接待などでおもてなしをして協賛スポンサーに選ばれるなど、贈収賄事件をはじめ特定の利益供与をした場合なども、重大なコンプライアンス違反になります。
知的財産権
誰かの著作物をそのまま無断でトレースなどして自社の広告に使う、キャッチコピーに本来ない効果を掲載するなど、著作権法や景品表示法、あるいは薬機法などに違反するとコンプライアンス違反になります。
最近は検索エンジンによって簡単にトレースがバレます。
本当に良いものを参考にしたい場合は、作者に連絡をしてしかるべき契約をすべきです。
情報漏洩
顧客情報の漏洩や公式発表前のインサイダー情報の情報漏れなども重大なコンプライアンス違反になります。
社内から情報が漏れないようなシステム構築が求められます。
ジェンダー、宗教、人種
性別、ジェンダーに関する広告やCMがたびたび炎上しています。
最近では吉野家のPR戦略が大炎上しました。
あの発言は大学の寄付講座というインナーサークルでのものでしたが、どこから情報が拡散されるかわからない時代になっています。
人種や宗教は日本ではそこまで問題に今のところなっていませんが、多様性に配慮がないと、もはやコンプライアンス違反と指摘される時代になっています。
不正会計
企業が公開する決算や会計に不正があるのも重大なコンプライアンス違反です。
不正会計は株価などとも連動するため、ウソを記載するのは極めて悪質です。
赤字なら赤字で堂々と公開して市場や株主の評価を仰ぐべきです。
ハラスメント
セクハラやパワハラも重大なコンプライアンス違反です。
労働施策総合推進法にハラスメント防止規定が盛り込まれたほか、労働基準法や男女雇用機会均等法にもハラスメント定が設けられましたので、セクハラやパワハラを行えば明確に法令違反になります。
狭義のコンプライアンスでもハラスメントは違反行為になります。
SNSに不適切利用
経営者だけではなく社員も含めて、SNSに不適切な投稿をして炎上し、謝罪に追い込まれることが増えてきました。
社内SNSアカウントで不適切なコメントや投稿をする社員もいます。
また、プライベートなアカウントで勤務先が到底される形で、問題のあるコメントをしてしまう人もいます。
プライベートアカウントについては、表現の自由などとの関係もあり「やるな」とは言えませんが、社内研修などを通して、匿名性を確保したうえで慎重な発言をすべきだと徹底しましょう。
もちろん、社会アカウントでの暴走は絶対に防いでください。
バイトテロ
数年前に話題になった「バイトテロ」はこれまでに挙げたコンプライアンス違反の総まとめのような事象です。
特に飲食店のバイト(あるいは社員)が、キッチンなどで不適切な行為をしてそれをSNS上にアップし炎上するというものですが
- 労務管理
- 食品偽装
- SNS不適切使用
- 情報漏洩
- ハラスメント
- (食品衛生違反、不衛生)
などが組み合わさり、企業イメージが最悪になります。法令違反のペナルティは小さいかもしれませんが、世論に与えるダメージはそれをはるかに凌駕します。
このようにコンプライアンス違反と指摘される事例は枚挙にいとまがありません。
さまざまな不祥事がほとんどコンプライアンス違反とされます。
SNSの発達によって、内部告発、外部からの指摘→炎上、意図しない情報流出など企業を取り巻くコンプライアンスリスクが格段に上がっています。それらを無視しての営業はできず、コンプライアンス対策が急務になります。
コンプライアンス違反を起こさないために各企業ができること
コンプライアンス違反を起こさないために企業では何ができるのでしょうか?世間から批判されないためには、「過剰防衛」「過剰対応」をしてしまいがちですが、そうではありません。
効果的な取り組みでコンプライアンス順守を達成していきます。
トップの迅速かつ明確な対応
何か問題が起きた時にその会社のトップ、あるいは責任者の対応が重要です。
トップの対応がまずかった事例はたくさんあります。
逆に東日本大震災時の某鉛筆メーカーの人事のやらかしメールに対して、即座に「驕り昂ぶり言語道断」と切って捨てた対応は、コンプライアンス違反からの大炎上を防いだ事例として評価されます。
代表が出てきて自分の言葉で話すこと、それに説得力を持たせることで、コンプライアンス違反の影響を最小限にとどめられます。
コンプライアンス研修を行う
管理職、一般社員問わずコンプライアンス研修を本気で行います。
アリバイ作りの座学ではなく、グループワークなども交えながら、コンプライアンス順守を体で覚えてもらいます。
当然、このコンプライアンス研修は仕事で行うので、平日に就業時間内に行い、もし時間がオーバーしたら時間外手当を払います。
休日、無給で行うコンプライアンス研修はその時点でコンプライアンス違反になります。
社外から講師を招き、内輪の雰囲気を壊してもらうことも大切です。
情報管理ルールを定める
機密情報や個人情報の漏洩は取り組み次第で防げます。人はミスをするものだと思い、かなり細かい部分まで規定するのも1つの方法です。
テレワークの浸透などによって、社内情報が外部に漏れるリスクも高くなっています。
ルール面だけではなく、パソコンやタブレット端末に物理的なセキュリティをかけて、パスワードなどを入力しないと利用できないようにする方法もあります。
USBメモリを利用するために何重ものステップを踏むルールを策定している会社もあります。
ただし、FAX1枚送るのに、相手先に電話(「FAX送ります」)、白紙を1枚送信、到着が確認されたら本物を送信、その際に2名で声出しチェック、FAX送信後相手に電話、みたいなことをするのは過剰です。そうしなくてもよいシステムを組むべきです。
労務管理のルール徹底
かつては当たり前とされた長時間労働やサービス残業ですが、それを許さない風潮に大きく変わりました。大企業でもそれらが発覚するとメディアで叩かれ、ブランドイメージが傷つくことになります。
労務管理について社内で定めて、徹底して周知させることが重要になります。労働基準法も順守していたら会社が成立しないという意見もありましたが、今はそんな姿勢では受け入れられません。
長時間労働の常態化を避け、有給休暇の取得を推奨し、特定の社員に負荷がかからない仕組みを作り上げないと、どこでコンプライアンス違反を指摘されるかわかりません。
ICレコーダーやPCの記録を労働基準監督署に持ち込まれれば一発でアウトになります。
社内のコンプライアンス対応部署を作り管理体制を構築する
コンプライアンス保持の専門チームを社内に設けます。
単独部署でもいいですし、総務部や法務部でもいいのですが、単なる訴訟対策ではなく、広くコンプライアンスの周知徹底ができるように管理体制を構築します。
内部通報窓口も設置します。
匿名性を担保し、コンプライアンス違反を未然に防ぎます。
これがないと、SNSなどによる義憤による情報拡散が行われかねません。
問題が社内で留まっているうちにしかるべき対応ができる体制を組みます。
そのほか社内規定の作成や研修や勉強会の実施なども、この部門が中心となって行うとよいでしょう。
社内だけで専門知識を把握するのは難しいため、その分野に詳しい弁護士などに講師を依頼すべきです。
まとめ~コンプライアンス順守は基本中の基本!
コンプライアンスと一言で言っても、幅広い概念だということをご理解いただけたはずです。
100%完璧にコンプライアンスを守り、批判されないようにするというのは大変かもしれませんが、できることから始めないと、どこでコンプライアンス違反を指摘されるかわかりません。
公的機関からの取り締まりだけでなく、メディアへの内部告発、SNSでの拡散など昔と比べて、対応すべきことが増えています。
違反を起こさないためには、会社のトップや役員が明確な意思を持ち、情報を共有しながら、ソフト面ハード面双方の対策を進め、社員への啓蒙も行ってください。
性善説に立ちたいものですが、悪意や過失がある前提でコンプライアンス対策を進めてください。
企業の評判はコンプライアンス違反で一気に悪化する可能性があります。
SNS社会を侮ると大変なことになります。
コンプライアンス順守を経営の中心に据えてぜひ社会的に信頼される会社作りに取り組んでください。