取引先がいきなり倒産してしまうことがあります。噂や株価などの指標で予兆がわかればよいのですが、そういうことなしに倒産すると自社が被るリスクが甚大なものになります。
取引先の倒産リスクに対してどのように対策すればよいのでしょうか?予期せぬリスクに対して落ち着いて向き合うために何ができるのか、今回は紹介します。
できることから初めて、倒産リスクから自社を守りましょう。
取引先の倒産の予兆を察知する
ある日突然、いきなり予期せぬ倒産や不渡りを取引先が起こしてしまう、そのような可能性もゼロではありませんが、多くの場合、倒産の予兆があります。いったいどのようなことが予兆として挙げられるのでしょうか?
支払いを待ってもらうように要請がある
キャッシュフローが悪化しているので、売掛金期日に支払いができません。したがって、事前に支払いを猶予してもらえないか要請があります。
支払日当日にいきなり未入金がわかるよりもマシですが、このような要請がある時点で、その会社にはお金がないということがわかります。
ここで怒鳴ったりせず、なぜ支払いを持ってほしいのか可能な限り聞いてください。ひょっとすると、業績悪化ではない理由で期日に支払いができないのかもしれません。理由次第では、倒産の兆候になりえないこともあります。
買掛金の入金を早めてもらうよう要請がある
上と同様取引先には現金がないので、少しでも早く、契約日以前に買掛金を入金してもらうよう依頼があります。
給料の前借りに近いイメージであり、本来の入金日前にお金を払ってもらうよう要請してくるわけで、本当にお金がなくてやばいということがわかります。
このようなことをせず、ファクタリングで期日前に請求書を買い取ってもらい現金化している可能性もあります。
手形のジャンプや融通手形(空手形)発行の依頼
手形のジャンプとは、説明した支払いの猶予と同様、手形を振り出した相手に対して、手形を取立てに出さないように要請します。不渡りを起こさないために、手形の決済日を延長してもらうように要請します。
融通手形は、実際には商品やサービスの売買等がないのに振り出される空(カラ)手形のことです。空手形を発行してもらい、それを金融機関で割り引いて換金します。
頭を下げて、お金を融通してもらうのです。現金がないのでこの手法で一時的にキャッシュフローを改善させます。
担当者が頻繁に変わる
担当者が頻繁に変わるということは、社員が逃げ出しているということでもあります。取引先社内は大混乱していて、引継ぎなども満足にできないかもしれません。
どんどん担当者が変わってくと取引先内での情報共有ができず、致命的なミス、エラーをしてしまうリスクもあります。
明らかに普通ではない状態なので、そういう状況を察知したら倒産の予兆だと認識してください。
取引先の倒産に備える対応策を紹介
取引先の倒産の予兆が確かなものであり、このままではいつ倒産してもおかしくないと判断した場合、速やかに対応策を取ります。一度倒産してしまうと、売掛金などの回収ができなくなります。
債権や債務の再確認
取引先が倒産した場合、不良債権になるものはどのくらいあるか、あるいはこちらが支払うべき債務はどのくらいあるのか、いざという時に備えて確認しておきましょう。
取引先との契約書をベースに、債権の金額や種類を確認し、未回収債権、あるいは未払債務がどのくらいあるのか、すべて把握しておきましょう。
納品済み商品やサービス、担保・保証人の有無、手形の有無、他の債権者の動向などを可能な限り把握します。
抵当権、担保を実行する
抵当権付きの債権を持っている場合、この時のための担保です。弁護士と相談しながら、いつでも抵当権を実行し差し押さえて回収できる準備をしてください。
もし取引先企業に対して、抵当権などの担保権が付いた債権をもっているのであれば、担保権を実行して、債権を回収できるよう手続きを進めます。
取引先が倒産、経営破綻して公的破産手続きに入った場合には、取引先への債権者は平等な扱いとなり、優先的に弁済(返済)が受けられなくなります。
しかし抵当権の設定があれば、公的破産手続きなどの公的な手続きに入った場合も、抵当権を実行することで、担保を売って、その競売代金などから優先的に債権の弁済が受けられます。
債務(買掛金等)があれば相殺する
取引先に売っているだけではなく、買っている、買掛金があれば、それを相殺しましょう。
- 取引先に売掛金150万円
- 取引先から買掛金130万円
の場合、相殺の申し出をすることで、売掛金20万円になります。これなら、倒産しても20万円のロスで済みます。
しかし、当然ですが勝手に債権債務の相殺はできません。トラブル防止のためにも内容証明郵便など確実に証拠を残しておく必要があります。
破産手続きが開始されてしまうと、相殺できなくなる可能性があるため、倒産が近いと判断した場合は、速やかに動かなければなりません。
取引先の債権を譲渡してもらう
取引先が完全に倒産していない場合、他の企業に対する売掛債権などを持っている可能性があります。みなさんの会社がその売掛金を譲り受けることで、支払いに代える方法です。
回収できる可能性が高い債権ならば、取引先及びそのクライアントと交渉して、売掛金を譲り受けます。その際には、内容証明付き郵便などで、取引先のクライアントに、自社が債権を引き受けた旨通知し、対抗要件を整備します。
このようにすることで、取引先から回収不能になった場合、そのさらに取引先のへの売掛金を「換金」し、回収不能になった債権に充てます。
商品を引きあげる
商品を取引先に売っている場合、取引先が倒産すれば不良在庫になってしまいます。賞味期限があるののなら商品価値がなくなりますし、場合によっては裁判所によって動産として差し押さえられてしまうかもしれません。
そうなる前に、他社に売るため、取引先から商品を引き上げます。しかし、無断で倉庫から持ち出すなどすれば違法行為、警察沙汰になります。
取引先の事情も聞きながらやむにやまれぬ判断として了解を得てください。
法的措置、強制執行する
最終手段であり、最も強力な手段です。取引先が倒産寸前であることが明らかで、それを客観的に証明できるならば、弁護士経由で裁判所に申し立てをします。
結果、強制執行によって取引先の財産を差し押さえ、強制的に売掛金を回収します。破産手続き前に行わないと強制執行が停止し、100%の売掛債権回収ができない可能性があります。
手続きをして債権回収をはかることも対策になるでしょう。
強制執行は、裁判所を通して、債務者の財産から強制的に債権を回収する手続きです。
債務者となる取引先の不動産や動産、債権を差押えるなどして、そこから債権回収できる可能性があります。
ただし強制執行は、破産手続きが開始されたときには、ストップしてしまいます。それまでにタイミングよく裁判所に申し立てないといけません。
もちろん、この手段をとる場合、取引先が倒産しなくても以降のビジネス関係は維持できないでしょう。本当に最後の手段としての対策になります。
取引先の倒産リスク回避のためにとってはいけない対策
取引先の倒産リスク回避のため、予兆を感じたらこれらの対策を実行すべきなのですが、逆にとってはいけない対策もあります。うっかりこちらの対策を採用しないように注意してください。
商品を会社の倉庫から勝手に持ち出す
商品の引きあげは倒産リスクに対する対策として有効だと上で書きました。しかし、相手の倉庫にある商品を無断で持ち出すのは窃盗です。立派な犯罪になります。
取引先の倉庫にある時点で所有権なども相手に移っています。相手の財産を勝手に持ち出せば犯罪行為です。倉庫に無断で入れば建造物侵入罪にも問われかねません。
リスクヘッジのため、商品の引きあげが必要な場合は、丁寧に取引先に説明して同意を取り付けてください。いくらみなさんの会社で製造したものでも、売買契約成立後(売掛金入金がまだでも)相手に権利が移ります。特段の定めをしていれば別ですが、そもそも所有権は別にしても、倉庫や相手の敷地に無断で入る時点で違法行為になることを忘れないでください。
取引先を威圧する、実力行使に出る
いくら相手に非があり、経営悪化により倒産し、売掛債権が回収できなかったとしても、ヤミ金融や反社会的勢力のような苛烈な取り立てが許されるはずもありません。そんなことをしては、ヤミの勢力と同じことをしています。
正当な弁済を求める方法は、内容証明付き郵便や弁護士作成の督促状などであり、それでも無理な場合、法的手段に出ます。
取引先に暴言を吐く、電話をかけ続ける、待ち伏せする、代表者の自宅へ電話する、こうしたことは借入の取り立てでも認められない悪質な示威行為です。
強硬すぎる弁済請求は、それが強要罪、名誉毀損罪、威力業務妨害、傷害罪などに該当してしまう可能性もあります。
怒る気持ちはわかりますが、弁護士を介して正当な売掛債権の回収に心がけないと、足をすくわれてしまいます。
倒産を確認し破産手続きが始まりそうなら速やかに弁護士に相談を
対策もむなしく、倒産し破産手続きが始まってしまうと、自社が持っていた債権の全額回収が難しくなります。差し押さえられた財産から、ほかの債権者に平等に弁済されることになるので、少しでも自社の債権回収が実現できるよう、速やかに弁護士に相談してください。
売掛金が数万円、10万円程度であれば弁護士費用の方が高くなるので、ある種諦めることになりますが、数百万単位で売掛債権があるなら、即動かないと大変な損失になってしまいます。
こうした事態を避けるためにも、常日頃から自社の経営上の諸問題について相談できる弁護士を見つけてください。さまざまな対策の法的な司令塔となるのが、自社の顧問弁護士です。まず、その弁護士を見つけることからスタートしてみましょう。
取引先への信用は必要!しかし妄信とは違うので倒産リスク対策を抜かりないように!
信頼できる取引先を見つけビジネスを行うのは基本ですが、どんな事業者でも突発的な倒産リスクはあります。また一見すると「誠実な人」が、実は裏では放漫経営やワンマン経営を行っている可能性も否定できません。
相手を信頼できるパートナーとして接するのは大切ですが、いざという時にすぐに対応できるよう、しっかり倒産リスク回避の対策をお願いします。
そのためにはまず信頼でき、取引先の倒産対応だけでなく、自社のコンプライアンスについても相談できる弁護士を見つけてください。信頼できる弁護士がいて、初めてさまざまな対策を打てます。
その点何卒宜しくお願い致します。